「こども食堂」という名前のイメージが変わってきた!

 こども食堂の役割については、様々な議論が交わされていますが、名取さんは「こども食堂=貧困のこどもたちのため、だけのものではない」と話します。世田谷こども食堂・松原の目的は、「子どもの孤食を防ぐこと」。親が仕事で夜帰りが遅くなると、子どもは独りぼっちで食事をすることになり、栄養バランスも心配に。この子どもの孤食をなくし、多世代の大人と交わってみんなで食事を取ることが、子どもたちの成長にプラスになるという思いで運営されています。

名取さん この世田谷こども食堂・松原は、今年1月にスタートしたときは「なかよし台所 松原」という名前だったんです。「こども食堂」という名前をつけると、来にくくなってしまうお子さん・親御さんもいるのではないか?という配慮から、あえて外していたんです。でも、今、こども食堂のイメージは変わりつつあるし、その役割も広くなっています。親子なら誰でも利用できるようにして、もちろんその中で経済的に苦しいご家庭のお子さんもしっかりケアしていけたらいいなと考えています

 名取さんがこども食堂立ち上げにあたり大切にしたポイントは、大きく3つあったそうです。それは、「人」「物」「資金」。

(1)人
 こども食堂は、調理と食事ができるスペースがあれば、簡単に始められるもの。それはつまり、やめるのも簡単ということ。一度できた子ども食堂が無くなることは、子どもにとって悲しい経験になってしまうので、それを避けるため、個人ではなくいろんな人の協力が得られる「団体」をベースにして活動すべきだと考え、既に活動していたコミュニティ「おとこの台所グループ」や、世田谷区社会福祉協議会に協力してもらった。また、子どもを預かる以上は登録制にして、ママとの関係を密にしている。

(2)物
 場所は、個人の家を開放するには限界があると考え、世田谷区と世田谷区社会福祉協議会が管理している建物を利用。食材は、購入するだけでなく、寄付してもらった食材も使用。この日も寄付のお米や大根、苺などを使っていた。寄付でいただいた食材を、帰るときに「はい、おみやげだよ」と子どもたちに配ってくれる日もある。この日はみかんのお土産をいただいた。

(3)資金
 例えば、1日に親子20組が利用したとして、大人20人×300円=6000円の売り上げがあっても、親子20組分にかかる食材購入費は、約1万円。世田谷区社会福祉協議会から補助金も出ているが、それでも毎回3000~4000円の赤字になってしまう。そこで名取さんは、現役時代に付き合いのあった企業にスポンサーについてもらい、「こども食堂の開催1回につき5000円の寄付」をもらうお願いをし、資金を確保している

名取さん こども食堂を作るのは簡単だけど、やめるのも簡単。すぐやめてしまうのだけは避けたいので、資金面で赤字が出ないよう、社会貢献したいという思いを持った企業の力を借りています

 わが家ではこども食堂を利用させてもらうようになって、こどもたちが月に2回の開催日を心待ちにしています。大人である私にとってもこの場所が大切な心の支えになっています。

安田 ごちそうさまでした。後片付け、お手伝いします。

運営スタッフさん いいのよ~。今日くらいは休んでて。いつもごはん作り大変でしょ?

安田 それが…私、あんまりごはん作りできていないんです。仕事から帰ってくると、もうクタクタで…。

運営スタッフさん 大丈夫よ。子育てにこれが正解なんてのは、ないんだから。お子さん、とっても元気でかわいいじゃない。お母さんの頑張っている背中を見ているから、あんなに素直に育っているのね。

安田 いえそれが、毎朝「早くしなさい」って怒鳴ってしまって…。ちっとも笑顔で子育てできていなくて。 

運営スタッフさん うちもそうだったな。うちは子どもがもう25歳と27歳なんだけど、本当に色々あったわよ(笑)。でもね、終わってみると子育てって本当にあっという間。親が子どもにしてやれることなんて、実は少ないのよ。成長してくると、親に何かされることにプレッシャーを感じて嫌がるしね。色々と口出しせずに、「ママはいつもあなたの味方だよ、大好きよ」って、見守っていることが、親が子どもにしてあげられる唯一のことなんじゃないかしら

 この先輩ママとのやり取りの後、私はトイレに駆け込み、ひとり号泣してしまいました。嗚咽がもれるくらい(笑)。大丈夫よ、の言葉が、本当に温かくてうれしくて。

 仕事場を猛ダッシュで飛び出し、上の息子を小学校の学童へお迎えに行き、そこから下の娘の保育園へお迎えに行き、もう汗だくでクタクタで。

安田 DUALの記事で読んだ「小1の壁」とはこのことなのか…!

と小1の壁を痛感する日々ですが、「月に2回、行く場所がある」と思うだけで、あったかい気持ちになれるんです

 このように、最近は地域のすべての子どもや親に開かれているこども食堂が増えています。「それでは、本当に貧困に苦しむ子に援助が届いているのかが分からなくなってしまう」という議論もありますが、核家族化の進む中、都会で子育てする2児のデュアラーママとして、本当にこども食堂に支えられ助けられています。

 全国のこども食堂をネットで検索できる「こども食堂ネットワーク」というHPもあるので、皆さんも一度親子で足を運んでみてはいかがでしょうか。

<この記事に関連するリンク>

︎「世田谷こども食堂・松原」
http://www.facebook.com/世田谷こども食堂松原-258676364570345/?hc_ref

︎「こども食堂ネットワーク」
http://kodomoshokudou-network.com

(文/安田美香)