『楽しいムーミン一家』『タッチ』などを手掛けてきたが商業アニメから離脱

――大人ではなく、子どもたちに教えようと思ったのはなぜでしょう。

遊佐:小学校で僕の授業を受けた子どもたちは、普段見ていたテレビアニメを見終わった後、エンディングのスタッフロールまで見るように必ずなるんです。それまでは「面白かった! おもちゃ欲しい!」などで終わっていたのが、動画、原画、演出、撮影、仕上げ、効果、作曲…たくさんのスタッフがいることに気付く。今まで声優ばかり見ていたのががらりと変わったと言ってくれる子どもが多いんです。そうやって「アニメーションの仕事ってすごいんだ」と理解してもらえることで、自然に仕事への偏見が取り除けるのではないかと考えたことが大きいですね。

 もう7年目になる活動ですが、最初に教えた子たちはもう大学生くらいですから、もしかしたらアニメーターを目指してくれているかもしれない。広い意味での人材育成でもあるんですよね。

遊佐さんは、小学校の特別講師も務めている
遊佐さんは、小学校の特別講師も務めている

――一方で、“日本が誇るアニメ”などといわれる割には、就職先としては厳しいイメージもあります。

遊佐:その厳しいイメージの一つに、この業界の労働条件が厳しいこともあります。スケジュールと予算の問題でこれを話すと3日必要なので話す場合はサッと話します。

――(笑)遊佐さんご自身は、もともとは竜の子プロダクションからキャリアをスタートされたのですね。

遊佐:そうですね。竜の子プロダクションでこの世界に入りまして、いわゆるヘッドハントを受け3年ほどでフリーになり、いくつかのプロダクションを経て商業アニメーションはやめようと決めたんです。個人事務所であるメビウス・トーンを設立し、NHKの短編アニメーションなどを手掛けるようになりました。アニメーターは通常、トレース台で絵を描くだけなのですが、僕は監督もこなします。演出や絵コンテや撮影も手掛けるようになり、3Dも独学で勉強しました。結果、収入的には僕の年齢としては平均ぐらいはいただけるようになっていますし、今はやりがいのあるポジションにも就いています。

 でも、“ジャパニメーション”の関係者の7、8割は苦労されています。だからこそ、一般社団法人練馬アニメーションや一般社団法人日本動画協会の事業に積極的に参加し、いろんな立場で、これからこの業界に入りたい人たちのためにも少しでも環境を改善したいと思い、活動しています。

――アニメーションのイメージ、業界の環境の改善に努めてきていらっしゃるんですね。ところで、「オタクなの?」とおっしゃられた娘さん的にはどうでしょう。

遊佐娘は小学校の卒業式で「将来はアニメーターになりたいです」と言ってくれましたね。まぁ、その日家に帰ったら「他に言うことがなかったから(アニメーターになりたいと言った)」って言われてしまったのですが(笑)。ただ娘は絵が好きで、美術の成績も良く、興味もあるようです。半年くらい前までは「美術大学に行く」などとも言っていました。また文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」(意欲と能力あるすべての日本の若者が、海外留学に自ら一歩を踏み出す気運を醸成することを目的として、2013年10月より文部科学省が始めた留学促進キャンペーン)に知らぬ間に応募してオーディションに通り選ばれ、この春休みを利用して1カ月ロンドンの美術系大学に短期留学していましたが、僕がこういう仕事をしていることも影響してか、芸術の勉強をしてきていました。

 言葉で何か言われることはありませんが、パパがオタクではなく(笑)、ポリシーを持ってやっているということは理解してくれているのかなと思いますね。

遊佐かずしげさんと愛猫の空くん
遊佐かずしげさんと愛猫の空くん