「花見は労働者の権利である!」

 私が大好きな、あるエピソードを例に挙げましょう。ある年、予算の関係で派出所のお花見が中止になってしまいました。仕事より遊びが好きな両さんは、この方針に大反対。「花見は労働者の権利である」というメッセージを、拡声器を使って、人通りの多いところで訴えます。かなり誇張しているものの、上手なスピーチは多くの味方を生み、両さんの上司は警視庁からも注意を受けて、花見を容認せざるをえなくなります。

 続いて、スピーチ上手の警察官・両さんに労働組合が目をつけます。春は賃金アップの交渉をする「春闘」の時期。組合から労働者向けの演説を頼まれた両さんは「花見の時期は仕事をしなくていいじゃないか」と会社員たちに呼びかけるのです。説得力あるスピーチに心を動かされたスーツ姿のサラリーマンたちが、次々とオフィスから立ち去り、桜の下にレジャーシートを敷いてお花見を始めます。仕事はもちろん中断。

 労働者の権利である“ストライキ”を実行するイメージを大げさに描いたエピソードに、両さん人気の理由の一端が、表れていると思いました。みんなの心の底にある、「もっと自由に好きなように生きたい」という気持ちを実行に移してくれるのが、両さんなのだな、と。

 派出所勤務の警察官には、柔軟な勤務体系などありません。在宅勤務は無理ですし、独身で介護もしていない両さんは、時短勤務もしていないでしょう。会社員以上に管理が厳しい警察組織で働きながら、それでも自分がやりたいこと(草野球やラジコンの改造などなど)を諦めない。一人暮らしですが、町内会の人に慕われており、何かあれば勤務時間中でも相談に乗ったり解決したりするために動いてしまう……。