子役の親というと、子どもの仕事場に終始付き添う献身的な“ステージママ”がイメージされるが、実際には“芸能界”という意識はそれほどなく、習い事の延長線上として子役をさせている親も少なくない。日本で最も有名なミュージカルの一つ『アニー』の今年度アニー役のママも、一人は受験生を含めた3人の子育て中の主婦、もう一人は教師としてフルタイムで働く“ワーママ”だ。とはいえ、やはりオーディションが基本で、日常的に“お受験”をしているような子役の世界で、親はどのように子どもを支えているのか、率直に語ってもらった。

 1986年から毎年、日本で上演され、“国民的ミュージカル”の呼び声も高いブロードウェー・ミュージカル『アニー』(東京では4月22日開幕)。大恐慌時代のアメリカを舞台に、前向きな孤児アニーが周囲の人々の生き方を変えてゆく心温まる物語だが、主人公はじめ子どもの出演者には高い表現力が求められ、子役の世界では“最難関”として知られている。今年も数百人の候補の中から厳正なオーディションが行われ、2人のアニー役が選ばれたが、そのママたちはどんなきっかけで子どもをこの世界に入れ、どのように支えているのか。白熱する稽古に参加中の小学5年生、野村里桜(りお)さんの母、菜々子さん、小学6年生の会百花(かいももか)さんの母、順子さんに話を聞いた。

左から会順子さん、アニー役の会百花さんと野村里桜さん、野村菜々子さん
左から会順子さん、アニー役の会百花さんと野村里桜さん、野村菜々子さん

「芸能界」というより「習い事の一つ」の感覚でミュージカルの道へ

―― 里桜さんと百花さんは、普段はどんなお子さんですか?

野村菜々子さん(以下、敬称略) 里桜はかなり自由な子ですね。いたずらもよくしますし、怒られてもへこまないし、元気で前向きです。でも一度、6歳のころに鏡の前で“里桜は嫌なことなんてないんだ”と呪文のように唱えているのを見たことがあって、きっと嫌なことがあったんだと思います。でもそれにのみ込まれまいとしていて、意志の強い子なんだな、と思いました。

会順子さん(以下、敬称略) 百花はいたって普通の子だと思いますが、計画性はあると思います。宿題でもなんでもここまでやると自分で計画を立てて、それをやらないと気が済まない。ダンスの教室でも、先生から注意を受けると、一人で練習して、次回までにできるようにしておくのには感心します。

―― お子さんを芸能界に入れたきっかけは?

野村 わが家では“芸能界に入れた”という感覚はないんです。近所の公民館でたまたまミュージカル教室が開催されていて、私は中学の英語教師をしていて習い事は子どもたちが自分で通えることが必須だったので、そこに上の子(愛梨さん・中学2年生。今回孤児役の一人としてやはり『アニー』に出演)と一緒に通わせていたら、先輩にものすごく優秀な子がいて、アニー役を射止めたんですよ。その子に憧れて追いつこうと歌やダンスを頑張っているうち、娘たちも『アニー』に挑戦することになりました。

 私もそういう意識はありませんでしたね。私は子どものころ、ダンスや歌をやってみたかったけど、当時は習い事といったら水泳やそろばんが普通で、親に言い出せなかったので、子どもが生まれたら子どもがやりたいことをさせてあげようと思っていたのです。娘が幼稚園のころ、テレビでバレエを見てやってみたいと言い出したので、早速通わせました。去年、たまたま電車の中で『アニー』のポスターを見かけ、アニー役って何歳なんだろうと思って調べたらちょうど自分の年齢だったそうで、“オーディションに応募してみようかな”と言うので“やってみたら”と送りだしたら、一次が受かり、二次にも受かり…。『アニー』はプロを目指す子どもたちが何年も受ける作品と聞いていたので、まさかと思いました。本当に夢のようです。

―― オーディションまでは相当、準備をされたのでしょうか?

野村 里桜は3年前、孤児の一人の役で『アニー』に出演したのですが、その後は主役のアニー役を目指したいといって、自分からダンスや歌、バレエのレッスンを増やし、毎日のように通っていました。今回のオーディション用に特別に何かするというよりも、その積み重ねた日々が結果につながったのだと思います。