受験産業に流されやすいのは、地方出身・共働き夫婦

 日経DUALの読者には、共働きで教育熱心な親御さんが多いようです。学歴が高く、収入も少なくはないので、私立に通わせる余裕もあるのでしょう。塾のチラシを見比べて「どこにしようかな」と思っている人も多いはずです。でも、それが「いいカモ」への第一歩です。

 私が知る限り、意外に危険なのは「地方出身・高学歴・共働き」の夫婦です。地方の公立中学校でまじめに勉強して、上位の公立高校を出て、都会の大学に入学して、そこそこの企業に就職し、結婚して子どもを持っている人たちです。

 こういう人たちは地方でのびのび育っていますから、子どものころはたっぷり遊んで、中学高校時代には恋愛や部活動を楽しんで、成績にも進路にもある程度満足しています。だから、子どもにも自分たちと同程度かそれ以上の学歴を持たせたいと考えているのですが、いかんせん都会の教育状況がわかりません。

 そこで、ママたちのランチ会などで色々質問するわけです。先輩ママの答えはこんな感じでしょう。「公立中は荒れているらしいよ」「進路指導してくれないらしいよ」「だから私立受験する子が圧倒的に多いみたいよ」

 さらに働くママへのとどめは「学童保育を卒業したら、塾に入れるのがいちばん番安心よ」……イチコロです(笑)。

 「じゃ、とりあえず塾で話を聞いてみよう」と体験会に行くと、後はレールの上を進むしかないのです。

あなたの心に潜む「羊心理」に気づこう

 気持ちはわかります。よいも悪いもわからないので、前を歩いている人についていけば安心と思うのは人情でしょう。でも、その「羊心理」が危険なのです。群れから外れることなく、ただついていって安心感を得ようとする心理です。

 でも、羊たちの行き先について、深く考えていますか?

 進学塾は、当然のことながら営利団体です。利益を追求し、業績を上げなくてはなりません。業績を上げるということは、塾に子どもをひとりでも多く集めるということです。そのためには合格実績を上げなくてはいけませんから、塾は親身になってくれますし、手取り足取り指導をしてくれます。山のような課題、際限なく続く夏期講習、丸暗記の方程式。

 けれど、「この子は本当に受験に向いているのか」「遊びが足りてないのではないか」「塾ではなく、家庭教師が向いているのではないか」といったアドバイスをしてくれるはずはありません。

 私はこの仕事を40年以上続けていく中で、塾での学習についていけずに脱落してしまった子を数多く見てきました。奪われてしまった子ども時代は、どんなにあがいても取り返すことはできません。

 中学に入学したら遊べるでしょうって? まさか、まさか。

 難関校の子どもたちは、授業についていくために必死の努力をしています。勉強についていけずに留年、転校という子も珍しくはありませんし、燃え尽きて不登校になってしまう子もいます。

 何よりも、本来はたっぷり遊ぶべきだった子ども時代を勉強で終わらせてしまった結果、創造力や好奇心が欠如した人になってしまうことがいちばん恐ろしいのです。