マメで勉強家の彼はいろいろとワークライフバランスについて調べ、自分なりに考えた結果、業界内ではそこそこ名の通ったその企業を辞め、誰も知らない新しい小さな会社に転職した。

男性が「子育てできるか」で転職する時代

 周囲は「若気の至りで誰も知らない会社なんかに行って、バカだな。今に、名刺に刷ってある会社名のありがたみがわかるぞ」と冷ややかだった。でも彼は、旧来型の働き方を続けながら派閥争いに汲々とする将来よりも、自分たちで一からルールを作れる環境を選んだ。

 転職後しばらくして、めでたく恋人と結婚したと報告があり、そのあと街で偶然再会した。

 仕事が充実しているのか、いい顔をしているな、と思った。ただ「新婚生活はどう?」と尋ねたら「全然帰れないので、妻がちょっとかわいそうです」と言ったのが気になった。それじゃあ転職した意味がないのでは……?

 程なくして、彼からまた報告があった。「やはりこの業界自体が家庭との両立が難しい風土だという結論に至り、転職することにした」と。聞けば全然違う業界だ。だが、彼がそれまでやっていた仕事が生かされそうな職種だった。

 決め手は何だったのか尋ねたところ「管理職に育児休業を取得した男性がおり、採用の際に“夫婦で子育てしながら働ける仕事がしたい”という自分の希望に共感してくれたから」とのことだった。

 前例に縛られる職場から前例を作れる職場へ、そして理想的な前例のある職場へと移った彼。