下の子がしっかりして見えるのは「お手本」があるから

 保育園の園長を長年務めた経験を持つ山田哲子さん(仮名)は、これまで保育士として関わってきた子どもが「僕はバカだから」と自分を否定するような言葉を口にする瞬間を何度か見てきた。

 「話を聞いてみると、親に否定的な声がけをされたことで、自分がダメだと思い込んでしまう子が多かったんです。先ほどのショートストーリーのように、妹や弟にまでダメ出しをされてしまうと、余計悲しくなってしまいますよね」

 あからさまなダメ出しはもちろんNGだとしても、親としては上の子には少しでもしっかりして、下の子を引っ張っていってほしいという思いを抱く人もいるだろう。

 「そもそも、下の子には要領がいい子が多いんです。上の子というお手本があるので、親が教えなくても自分からいろんなことを身につけられますし、言いたいことも上手に言える。2回目の子育てということで、親がゆとりを持って接していることも影響しているのでしょう

 反対に、上の子の場合は親との関係性が近く、親の期待に応えようという思いも強い。

 「親の言いたいことは理解できても、お手本がないからうまくやれないということも多いんです

 上の子につい注意したくなる気持ちも分かるが、言い方には気を付けてほしい、と山田さん。

 「『お兄ちゃんてダメだよね』と下の子と共感し合うのではなく、『お兄ちゃんは忘れ物が多いから、あなたも一緒に見守っていてあげてね』と下の子に声がけするくらいがちょうどいいのではないでしょうか」

 ダメ出しではなく「がんばれ」という応援であれば、上の子も傷つかないという。これは、保育士としてだけでなく、実生活で4人の子を育てた山田さんの経験によるもの。

 「わが家の場合、第一子の長女がおっとりした子だったんですよ。次女の手を引いてあげるつもりで、自分が転んでしまうとか(笑)」

 そんなとき、山田さんは、下の子に向かって、こんなふうに声をかけたという。

 「お姉ちゃんは○○ちゃん(次女)がかわいくて、お世話を一生懸命がんばっていたから自分のことにまで手が回らなかったんだよ

 この言い方であれば上の子の自尊心は傷つけられず、下の子も感謝の気持ちを持つようになる。上の子が失敗したときに、こんな声がけを続けたことで、山田さんの子どもたちのきょうだい関係が少しずつ出来上がっていったそうだ。

 「次女、長男、三女とも、成人した今でも、何か困ったことがあると、まず長女に相談するんです」