コーディネーターの堀江さん
コーディネーターの堀江さん

堀江: 昨年、シリコンバレーのグーグルのオフィスに見学に行ったのですが、社員をいかに幸せな状態で働かせるかに注力している、と言っていました。そうすると生活満足度が上がり、みんな勝手にちゃんと仕事してくれる、そこでまた出会った人たちの間でイノベーションが起きる、と言っていました。

 生活満足度は社員の定着率にも関係しそうですよね。男性の育児参加の推進と、社員の定着率は相関関係があるのでしょうか。

新田: そうですね。建設業界の企業での例ですが、マネジャーの方が部下に仕事の予定だけでなく、例えば「子どもの行事がある」など部下の個人のスケジュールも全部スケジュール表に共有させた。すると、辞める人が減ったり、残業時間が減ったりした、と。「そういえば来週、子どもの○○あるんだったら休んだほうがいいんじゃないの」など、家庭生活のことを言いやすい環境を上司自らがつくったわけです。これはケアするだけでコストもかからないのに効果はとても高いんですね。

聞く勇気と、話す勇気

堀江:働き方改革については「いいな、取り入れたいな」という部分と「とはいえ、やはり難しそう」という部分と両方ありますよね。例えば、みんなが自由に働き過ぎると、逆に長時間労働になってしまったり、リモートワークし過ぎて他の人と時間が合わなかったり。いろんな人が一緒に働いていると、どういう解決法がありますか。

羽生:日経DUAL編集部も成功と失敗を重ねて今があります。チームメンバーにはアルバイト、フリーランス、契約社員、業務委託、子会社からの出向、親会社からの出向・・と、本当に多様な立場の人がいます。昔のように単一均等の社員がピラミッド型で働いていたときより、チームワークを高めないと、継続できません。

 いろんなツールやテクニック、制度がありますけれど、実は一番効果があるのが「聞く勇気と話す勇気」だなと思っています。ある男性社員の遅刻が増え、モチベーションが落ちたのかなと心配になり踏み込んで聞いたら、その方のお母さんが認知症になったと分かったという例もあります。

堀江:色々な人が一緒に働いていることを認識することから始まり、理解し合って、話し合って、チームになっていく。やはり時間はかかりますよね。

羽生:そうですね。時間はかかるけれども、そのチームで相乗効果が出たときの爽快感は何物にも替え難いですよ。

堀江:職場にいる、色々な立場の人のことを知るためにも、自分自身が自分の家庭を見ることがすごく大切だと思います。多様性の問題を、仕事の部分だけで見ていても理解できない。色々な家庭があり、色々な生活がある。男性自身が自分の家庭を見るだけで解決することって多いのではないかと思いますよね。

 男性が家庭進出すると、多様性を理解することができ、例えば17時に帰宅するとなると、時間に制限ができて仕事の効率も上がる。そして、子どもを介して仕事にも役立てるコミュニケーション術を学べ、同時に生活満足度も上がる。「男性の家庭進出」にキーが集約されていますよね。

「妻が一番大事」って言えますか

堀江:最後に一言ずつお願いします。

高橋:やはり男の意識改革が大事かなと思います。「妻が一番大事」と思ってほしい。自分の反省も込めて、日本人の男性はここが足りてないのかな、と。なんか説教臭くてすみません。結婚した相手は妻であって子どもではないので、やはり妻を一番大切にしたいと思います。ダディが育児や家事をする。すると妻に時間ができる。妻に時間ができると、また友達やいろんな人に会ったりして仕事できるようになる。仕事のあれこれをまた夫婦でシェアできます。あと、お金で測っちゃいけない、と思うかもしれないけど、やはり1人で働いているときより家庭内の収入は上がります。それは家族単位の幸せです。旅行ができたりね。

「男性の意識改革が大事」と語る高橋さん(右)
「男性の意識改革が大事」と語る高橋さん(右)

堀江:男性が1人で働くと、無理をしたり、体を壊してしまったり、ということもありますよね。それなら仕事も夫婦で楽しみながらシェアする。その結果、収入も上がる。

新田:男性が家庭進出すると明らかにいいことがいっぱいあります。効率的な時間の使い方やスケジューリングは仕事にも活かせますし、何より「イクメン」「イクボス」と呼ばれる人の家庭はみな円満なんです。コミュニケーションがうまく取れているのだと思います。

堀江:男性が外で働き、女性が家庭に入る、と決めてしまうと、妻と夫の話が合わない、ということも出てきてしまいがち。どちらもお互いの話を理解できるからこそ、コミュニケーションが取れる、という側面もありますよね。

新田:ただ、夫は自分が思っているほど家事・育児をできてないですよ。わが家の家事・育児をリストアップして夫が担当している部分、妻が担当している部分と色分けしてみたんですが、やっぱり妻が多い。自分では「結構やっている」と思っていてもこんな程度ですからね。家族で話し合いながら、自分たちにとってよい形を見つけていけるといいのかなと思います。

堀江:羽生さんも最後に一言お願いします。

羽生:100歳まで生きる人が今後は増えると思われます。100年ですよ、皆さん。昔みたいに30~40代で昇進目指して仕事に没頭。50代後半で退職して年金もらっていっちょう上がり、というわけにはいきません。今私は40歳ですが、まだ折り返しにも来ていない。仕事一辺倒で走り続けるには100年は長過ぎる。自分の年齢を3で割って24時間に当てはめる「人生時計」という考え方をしています。21歳だと朝7時。36歳でまだ正午です。1つの企業に出社して、ずっと働くだけでは本当に長い時間なので、家庭や子どもを持ったり、自分の趣味を持ったり、学び直したり、色々必要だと思います。

 特に、今日参加している学生の皆さんは、まだ朝6時や7時。あまり「こういう働き方がいい!」決め込まずに色々やってみるといいかなと思います。その「いろいろ」の中に、家庭進出も入れるといいんじゃないかな。

堀江:働き方を変えるのはまだまだ難しい、という会社もあるかもしれませんが、今日の「Social Business Idea Contest」のように若い皆さんが自信を持って「ここを変えていきたい」「意識を変えよう」など、発信をしてくださると「社会は変わってきてるんだ」とみんな気付いていく。今変わっていないからしょうがないのかな、と諦めるのではなく、「私たちはこれを目指している」と発信し続けてほしいなと思います。

(取材・文/小林浩子 撮影/花井智子)