経営者が覚悟を決めるかどうかだけ
新田:経営者が「ウチは本気で働き方改革をやる!」という覚悟を決めて、やり切るかどうか。それだけですね。企業のネームバリュー、お金のあるなし、事業規模の大小などは一切関係ありません。
なぜ、掛け声だけで終わってしまうのか。たいへんだからです。全体の仕事量が変わらないのに働く時間を減らすことはとても難しいんですね。全員で意識を共有するだけでなく、仕組みも必要です。経営者が朝から晩まで「大事だ大事だ」と言い続けて「うまくできたら給与が上がるよ、昇進するからね」と言って5~6年続けてやっと進む。過去の例でいうと、トリンプという会社が月~金曜までノー残業デーにするという試みをしましたが、10年かかりました。社内を見回ってとにかく「帰れ」「帰れ」と言い、残業をしたい人は申請するとか、必要性をプレゼンさせるとか、残業すると面倒臭いことになる仕組みを本気で作ってやっと成功した。経営者が覚悟を決めてやるかどうかに尽きます。
堀江:働き方改革に取り組んだ企業と取り組んでいない企業と、差がついてきてるなと最近感じていますが、今後5~10年ぐらいでさらに差が明らかになりそうですね。
「AI記者」も登場している
堀江: そして、これから25年後の働き方を考えると、AI(人工知能)の話も当たり前になってくると思います。働くという意識も変わってくるのでしょうか。日経グループではAIを既に取り入れていると聞きましたが。
羽生: 記者は夜討ち朝駆けという言葉があるように、張り込むような仕事が当然とされていました。私も8年ほど『日経マネー』で金融記者をしましたが、大きな決算がでるときや海外で株価が動くような事件があるときは「寝ていたら情報が取れない」という世界でした。しかし今はAIの技術が記者の生活にも影響が出てきています。日経新聞の取り組みですけれど、AI記者がいるんですね。即時発信が大切な決算などは、文章に味があるというより「数字」が大事。そうなると、人間より正確で早い。そこで、AI記者には書けないコンテンツを書いていくのが生身の記者。「しかし」と書くか「だから」と書くか、そういったことはAIはまだできない。速報でなく、解説記事は人間が書く意味があるコンテンツではないでしょうか。今後は、労働力の価値が変わり、働き方もずいぶん変わるのではないかなと思います。
堀江: 時間だけで働いている人は価値がなくなるのでしょうね。働き方改革や男性の家庭進出というキーワードは、ともすると「ゆるい」と捉えられがちですが、実は働き方はよりシビアになりそうですね。
育児が人と人をつなぐ接着剤に
堀江: 男性が家庭進出すると、働き方改革につながる、という話が出ましたが、皆さん働き方を改革するために家庭進出するわけじゃないと思います。男性の家庭進出は一人ひとりの幸せにつながるのでしょうか。
高橋: 子育てが人生の楽しみにつながるのは間違いない。ぼくは仕事と子育てを公私混同することを実行しています。例えば会社の絆を深めるためのバーベキューパーティーなんかに子どもを連れていっちゃおうぜ、と。すると「そちらは子どもどうなの」など話が広がります。男同士は野球やゴルフの会話ばかりで普通子どもの話はあまりしないんですけど、ぼくが率先して子どもの話をするようにしたら、スタッフも「うちも運動会ですよ」などと会話するようになりましたよ。会話って大事だなと思っています。
堀江: 子どもが人と人とをつなぐ接着剤になり、それが仕事にも生かされてるのですね。日本はOECDの生活満足度調査で平均を下回っていて、仕事ばっかりしているのに労働生産性は低い。これでは長期間働き続けられないですよね。反対に、子育てすると、自分も幸せで、育児をきっかけに会社の他の人たちと仲良くなれる。それはサスティナブルですよね。
羽生: 早く帰って子育てタイムを十分に味わえる日があると、翌朝、みんなお肌がピカピカになって出勤してくれる。見るからに幸せそう。リーダーとしてそれを見るのはこれ以上はない幸せです。
わが家でも、夫と私とが違う分野で頑張り、子どもは子どもで学校で友達と仲良くしたり勉強したりしてきて、夜それをみんな家に持ち寄る。励まし合ったり慰め合ったりして、6~7時間たっぷり寝てまた翌朝会社や学校に行く。言葉にするとシンプルだけど、こんなよい働き方、暮らし方はないと思います。
堀江: 勝手に生活満足度が上がって、働くモチベーションが上がる。
羽生: チームによっては、結婚してない人も子どもがいない人ももちろんいると思いますが、「家族でキャンプに行った」などと誰かが楽しそうに話し出すと、独身や子どものいないメンバーも「実はホノルルマラソンに出る」「中国語の勉強始めたんだ」とか色々自分のことを話すようになって、活気あふれていいムードを作れている企業もたくさん出てきています。