夜の会議に出られず昇進できない

羽生:昨年末、日経DUALで「共働き子育てしやすい企業調査」をしてランキングを発表したのですが、一番分かりやすいポイントは時間外労働でしたね。時間外労働時間に男女差のある企業は要注意です。「女性は17時半に帰れますよ」「女性管理職もいますよ」「女性の残業時間1ケタですよ」とアピールしていても、男性の残業時間が80~100時間とか、もっと悪いと「管理してない」などというケースさえありました。

 そういう会社では、男性の家庭進出は難しい、そして「経営の意思決定の時間帯に女性がいない」ということにつながりますので子育て中の女性が活躍するのも難しい。ママ社員は早く帰り、男性は遅くまで残ってどんどん昇進する、という構図の企業はいまだにあります。反対に、残業時間の男女差が少ないところは、ママでも企業内でちゃんと活躍している。企業内で男女の役割が平等であれば、家庭内でも男女が平等にできる、ということがいえると思います。就活や転職などで会社を見るときは「単に女性が帰りやすい」だけの会社じゃないかどうかを見てみるとよいですよ。

羽生祥子・日経DUAL編集長
羽生祥子・日経DUAL編集長

堀江:男女の役割が平等な会社は、男女ともに働きやすい、ということですね。

新田:女性で子育てしていると夜遅い会議に参加できない、ということは確かにありますよね。例えば役員の人は、結構夜遅くから会議をやるケースが多い。でも21時からの会議は育児中だと参加できない。その会議に出席できないという理由だけで昇進できない、という会社は実際ありますよね。

堀江:テレビ局はとても忙しそうですけど、高橋さんはいかがですか。

高橋:伝統のある企業はもっと大変かもしれませんが、30年続いてきた番組だと、30年培ってきた番組の常識や成功パターンがあるんですよね。働き方改革するとなると、それを切り崩さなきゃいけなくなる。それが難しい。働き方改革について日々悶々と考えてると、やはり「シフト化」しかないのかなと提案し始めてますが、番組作りというのはクリエーティブな仕事で、しゃくし定規にできない部分があります。番組作りで最初にするアシスタントディレクター(AD)という仕事があるのですが「習うより慣れろ」みたいな側面があり、AD本人が「早く仕事を覚えたいから休みたいなんて思ってません」と言う。「働きたい人が働けないのはよくない」という意見もあるし、答えが出せない問題はたくさんあります。

慣習をすべて見直すところから始める

コーディネーターを務めた堀江敦子さん(スリール株式会社 代表取締役社長)
コーディネーターを務めた堀江敦子さん(スリール株式会社 代表取締役社長)

堀江:同じメディア業界である日経DUALのマネジメントはどうですか。

羽生:ウェブマガジンを創刊するに当たって社内外から最初に言われたのは、夜中にでも対応できるように「いつでも働ける人をチームにしなければ運用は難しいんじゃないか」ということでした。でも私は、子どもを保育園に預けているパパ・ママたちに声をかけました。だって、昼夜問わず働ける人でなければウェブが作れないとしたら、健全な子育て中の生活者の視線や感覚がいつまでたってもネットの世界で発信することができないという危惧があったからです。そこでまずは、「普通、メディアの仕事ってこういうもんだよね」と思われていた慣習をリストアップして、見直すところから始めました。一例ですが、深夜にアップした記事を夜中にSNSでもすぐに同時アップする必要があるのか。SNSで深夜に発信している人は、朝起きて子どもの支度をするような読者ではないんじゃないの? 我々が発信したい読者対象は早起きの人ではないの? そうやって慣習をいちいち見直すことで、メリットが少し減ってしまう部分もありますが、それよりもサスティナブルというメリットを優先することに注力しました。今もチームで「これは必要、これは非効率」などと仕事の棚卸しを頻繁にしています。

 あと、企業は成長するために、ほうっておくとどんどん新仕事が増えてしまうんです。そのSNS仕事も一例。私は「ダルマ落とし理論」と呼んでいるのですが、1つ上に仕事をのせたいなら、一番下の生産性の悪いものを切る。当たり前ですが、人間のパワーには限度がありますからね。「新しい仕事を1つ増やしたい、じゃあ泣く泣く手放す仕事は何?」と優先順位を常につける。それはマネジャーの仕事だけではなく、チームの一人ひとりが頭を使って考えることが大事だと思っています。

堀江:日経DUALの場合、発信者である編集スタッフもママ・パパで、読者という受信者もママ・パパなのですね。

羽生:そうですね。やはり行間からにじみ出るものがあると思うんです。記事はもちろん、テレビ番組や製品などもそうでしょうが、どういう生活スタイルをしている人が作ったのか、にじみ出てしまうと思います。やはり「フリ」ではできないと思います。

堀江:発信者も早く帰って子育てし、同じような受信者の人たちのことを考えながら発信をしてるのですね。

指揮だけ変わっても変わらない

高橋:テレビ業界でも働き方改革を導入したいけど「現場」と「非現場」がある。非現場では取り入れられても、現場では取り入れられないこともあります。

堀江:現場は、いろんな人が働いてるんですよね。

高橋:そうですよ。1つの番組に様々な人が関わっています。AD、プロデューサー、セットを作る美術、時間を計るタイムキーパー、フリーランスの放送作家などが、みんなで1つの番組を作るので、本当に答えが出せない。「TBSテレビさんは、会社として働き方改革どうしますか?」と聞かれてしゃくし定規に「こうします」とは言えない。オーケストラの指揮者だけ変わっても音は変わらない。どうしたらいいか難しい問題だけど、変えなくちゃいけないということは伝えていかなくてはいけないと思っています。

新田:本当に難しい問題ですね。「働き方改革する」と言っても、掛け声だけで終わっている会社も実際多いです。働き方改革がうまくいっている会社とうまくいっていない会社、明確な違いが1つあります。