新入社員に料理研修をさせる

 「新入社員に研修として料理教室に参加させる」という斬新な提案をしたのは、法政大学の「クッキングパパ」チームです。

 「私たちは、家事のなかで料理に焦点を当てました。調べてみると、家事全体に対する料理の割合は半分を占めます。妻が夫にしてほしい家事ナンバー1も料理です。しかしながら現状は、男性と女性で家事関連時間に大きな差があります。そこで私たちは、男性の家庭進出が進まないのは、男性が家事・育児をする時間がないだけでなく、家事・育児のやり方が分からないのではないか、と考えました。調査を進めると、20代の一人暮らしの男性の90%以上が『料理ができて当然と思う』と答えているけれども自炊頻度は低い。つまり、実際に料理をしている若者は少ないものの、料理はできるようになりたいと思っている若者は多いことが分かりました」

法政大学の「クッキングパパ」チーム
法政大学の「クッキングパパ」チーム

 料理ができるようになりたい若者を、男女問わず「料理のできる若者」に変えることで家庭進出につなげるプロジェクトが「絆レストラン」です。

 「まずは、新入社員に対し、研修の一環として月に2回ほどお昼の90分を使い、料理教室を開催します。料理につきものだけれども意外とできない片付けのセッションまで行います。料理教室に参加することで、料理のできる男性が増加して将来的な家庭進出につながる。また、新入社員が同期と共同作業することにより、チームワークの向上が図れるというメリットがあります。

 次に実践です。実際に料理をするには時間が必要です。会社として料理する機会を提供し、実践する場を設けるために、日替わりで社員を定時退社させます。さらに、これらの料理の経験を社内全員で共有します。具体的には、掲示ボードを設置し、料理の写真やレシピを掲載、社内報に料理経験のコラムを掲載、部署ごとに朝礼などで月に1〜2回ほど料理経験を発表する場を設けます。これにより、社員間のコミュニケーションが向上し、料理の話題をきっかけに職場で家庭の事情などを話しやすくなり、家庭への理解が深まり、男性の家庭進出が進みやすい環境になります」

託児所と社員食堂をドッキング

 社内託児所と社員食堂をドッキングさせた「Grow Lounge」を提案したのは、中央大学の坂田直奈美さんです。

 「男性が育休を取得できなかった理由を調べてみると、男性の育児参加をよしとしない『職場の雰囲気』が大きく影響しています」と坂田さんは説明します。

 「男性の育児参加が受け入れられる空気が必要です。空気感を創出するために、企業内の託児所に預けられている子どもたちと、その企業の社員が一緒に食事を楽しめるスペース『Grow Lounge』を提案します。

 真ん中のキッチンスペースを挟んで右が大人、左が子どもの託児スペース。スロープで2つの空間がつながっていて、個人の意志で行き来できるようになっています。大人が子どもスペースに行って一緒に食事を楽しんでもよいです。また、子どもスペースの床は少し高くなっていて、大人スペースから子どもの様子も分かるようにします。

 Grow Loungeを導入すると、関わる人たちみんなにメリットがあります。まず社員に対しては3つの世代にそれぞれ異なるメリットがあります。子育て世代にとっては、近くに子どもの存在があるので男女分け隔てなく自然と子育ての話がしやすくなり、情報交換が活発になり、仕事と家庭の両立に励む仲間ができる。若者世代にとっては、結婚・出産の前に子どもと触れ合う機会が得られ、先輩から育児の話を聞くことで、仕事と家庭を両立する未来のビジョンが描ける。上司世代にとっては、子育てに奮闘する部下の様子を直接見聞きする機会が増え、子育てに対する理解が深まる。また、子どもたちも家族以外の大人と話す機会が増えて社会性が身に付き、企業としても子育て支援に積極的な企業としてPR効果のアップが期待できます」

「Grow Lounge」を提案した、中央大学の坂田直奈美さん
「Grow Lounge」を提案した、中央大学の坂田直奈美さん

最初の一歩はマイノリティー

 最後に、審査委員の羽生編集長が総評し、学生たちにエールを送りました。

 「私は5年前に『共働き子育て世帯を読者層にしたメディアを立ち上げる』というビジョンを描き、日経DUALというウェブ媒体を創刊しました。1人から始めた、いわば『ソーシャルビジネス社内起業』です。当時はまだ『ワーキングママ』や『パパの働き方改革』という言葉は圧倒的少数派のイメージがあり、ちゃんとたくさんの人が集まるの? 一部の特殊な人のライフスタイルではないのか? という声がたくさん聞こえてきました。ですがわずか5年後の現在、男女ともに仕事と子育ての両立を目指す世帯が増え、若い方々も両立というキーワードでキャリアアップを望んでいます。

 社会を変革していくアイデア、健全な市場を生み出すビジネスというものは、得てして最初の一歩はマイノリティーです。『いいね!』と言ってくれる人は少ないものです。しかし、そのアイデアが社会にとって、そして個人個人にとって、お役に立てる、地に足の着いた幸せにつながるものであれば、おのずと賛同者は拡大し、1つの大きなうねりとなって社会に貢献していくものです。今回応募してくださった学生の皆さんは、その『一歩』を踏み出した勇気あるイノベーターです。その好奇心にあふれた積極的なマインドを磨き続けて、ぜひ日本社会と個人の人生の頼もしい架け橋になってほしいと思います」

審査委員らと5組の学生チームのメンバー
審査委員らと5組の学生チームのメンバー

(取材・文/小林浩子 撮影/花井智子)

 (下)の記事では、ブラック企業アナリストの新田龍さんら審査委員によるパネルトークの模様をお伝えします。