皆さんこんにちは、治部れんげです。本連載は「怒れ!」をテーマにしていますが、今回は趣向を変えて「幸福」について考えます。

国民の幸せを増やすことを目標に掲げる国

 3月15日(水)、JICA(東京都千代田区)で開かれた「ブータン王国『国民総幸福量にかかる情報収集・確認調査』成果発表セミナー ―「幸福度」と国・社会のあり方―」というセミナーに出席しました。ブータン王立研究所のカルマ・ウラ所長と解剖学者でブータンに何度も訪れている養老孟司先生が基調講演、内閣府経済社会総合研究所総務部長の桑原進さんによる日本人の生活満足度などに関する調査の報告、そして私は日本人のワークライフ・バランスやジェンダー(女性)の視点で幸福と政策について話しました。

 ブータンは、国民が幸福を追求できる環境を整備することを国の目標に掲げています。単なる理想論ではなく、憲法で「国は、国民総幸福量の追求を可能にする環境を推進する努力をしなければならない」と定めており、本気が表れています。国の政策実施においては、幸福量を増やすことを目標にしています。

 国民の幸福度は「国民総幸福量=Gross National Happiness:GNH」と呼ばれ、統計的な手法で測られます。このセミナーでは、JICAが政策立案支援として行った、2014年度~16年度の調査「GNH調査2015」について、調査を手掛けた王立研究所のウラ所長が解説しました。

困ったときに助けてくれる人が50人いる!?

 この調査では7153人のブータン国民に面接し、農業を営む人、軍人、公務員、ビジネスパーソン、学生、僧侶など多様な人々に話を聞いています。生活水準・健康状態・教育・政府の機能に関する認識、心理的充足や時間の使い方など、9の分野について満足度などを尋ねたそうです。

 セミナー冒頭に、JICAブータン事務所の高野翔(たかの・しょう)さんが、GNHに関する面接調査に参加したときの経験を報告しました。

 「山の奥にある過疎の村で、ある男性に面接調査をしたときのことをよく覚えています。『あなたが困ったときに助けてくれる人がどのくらいいますか?』と尋ねると胸を張って『50人くらいかな』と答えたのです

 これは人間の幸福について考える上で象徴的なエピソードです。現代日本の抱える諸問題、人々に「生きづらさ」を感じさせる要素は、人間関係の希薄さだからです。例えば、本連載でも何度か取り上げた、ひとり親の貧困問題などは、個別家庭の経済状況にとどまらない、社会からの排除、人間関係のなさが大きな課題になっていました。

JICAのセミナーの様子。登壇者は左から、JICA南アジア部次長の松本さん、内閣府経済社会総合研究所総務部長の桑原さん、ブータン王立研究所所長のカルマ・ウラさん、東大名誉教授の養老孟司さん。右端は報告中の筆者。写真は筆者の高校時代の友人が撮ってくれました
JICAのセミナーの様子。登壇者は左から、JICA南アジア部次長の松本さん、内閣府経済社会総合研究所総務部長の桑原さん、ブータン王立研究所所長のカルマ・ウラさん、東大名誉教授の養老孟司さん。右端は報告中の筆者。写真は筆者の高校時代の友人が撮ってくれました