三上寛そして、寺山修司
歌の途中で、ふいに寛さんがつぶやいた「吸いさしの煙草で北を指すときの北暗ければ望郷ならず」と。おお、寺山修司(歌集『田園に死す』)だ! と思ったら泣けた。
終わってから、「父さん、泣いてたね」って言われたけど、「サビで三上寛さんの吠え声を聞いたら、体が共鳴して震えたもんね。それに寺山の歌だよ。そりゃ涙も出るさ。あのとき、寛さんの背後に暗い北の海が見えて、カモメが飛んでたんだよ」って、熱く語ってしまった。
三上寛さんは寺山修司の映画『田園に死す』や大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』にも出演していることなど、終演後のラーメン居酒屋で臨時講義する父。映画好きの息子が見たら、また、語り合えるだろう。
「父さん、寺山修司の本、今も持ってる?」と言うから「もちろん」。三上寛さんも休憩中の会話の中で息子に言ってくれていた。「君らには昔のものかもしれないけど、興味を持ったら寺山とか読むといいよ」と。
若いときに聞いた歌や読んだ本の影響力は計り知れない。たとえ夢見たことがかなわなくても、いつまでも心の奥に熾火(おきび)のように燃えている。
息子たちもそんな歌い手や、作家に出会えたら幸いだと、いつも思っている父です。いや、彼らも、もうすでに出会っているのかもしれないね。