保育所が足りない、虐待が多いは「都市だから」で済むのだろうか

 不幸にして、子どもが保育所に入れなかった場合、父母のどちらか(多くは母親)が退職を強いられるケースも出てきます。そのことで育児ストレスが高じ、よからぬことが起きる可能性も……。例えば児童虐待です。

 児童虐待の発生率の指標を、47都道府県別に計算することができます。先日、私は神奈川県民になりましたが、2014年度間の本県の児童虐待相談件数(就学前の乳幼児が被害者のもの)は4527件。同年10月時点の0~5歳人口は45万4000人。よって、乳幼児人口1万人当たりの虐待相談件数は99.7件となります。全国値(61.6)よりも、かなり高くなっています。保育所に入れている乳幼児の率が低いためでしょうか(前ページ図1)。

 この数値を乳幼児の虐待被害率に見立て、先ほど出した保育所在所率との相関をとると、図2のようになります。

 おぼろげながら、乳幼児の保育所在所率と虐待被害率の間には、マイナスの相関関係が観察されます。相関係数は-0.3528で統計的に有意です(5%水準)。

 これはあくまで相関関係であり、「保育所が少ないから虐待が起きる」という因果経路を演繹できるものではありません。グラフをみると、左上には大都市県、右下には地方県がありますので、単に都会か田舎かの違いによるかもしれません。保育所が足りないこと、虐待が多発することはいずれも、都市性という共通の条件に由来するとも考えられます。

M字のボトムと「イライラ」の頂点が重なる結果起こることとは

 しかし、どうなんですかねえ。「相関と因果は異なる」という統計学のイロハは心得ていますが、因果関係がある可能性も全面否定できないような気がします。わが子を保育園に入れられず、キャリアの中断(断絶)を強いられたママさんの苦悩は決して小さくないでしょう。

 手のかかる小さいお子さんがいるママさんは、多かれ少なかれストレス(イライラ)を抱えているとは思いますが、そのピークは、キャリアの中断期と見事に一致しています(図3)。グラフの「イライラする」とは、何らかの症状を訴えた女性のうち、最も気になる症状として「イライラする」を選んだ人のことです。

 ご存じのように女性の有業率カーブはM字を描きますが、そのボトムと「イライラ」の頂点が重なっています。子どもの保育園入園がかなわず、退職を強いられた女性の場合、イライラの火柱はもっと高くなるのではないでしょうか。言い忘れましたが、児童虐待の加害者の大半は母親です。