息子の目が、むくがいなくなった悲しみを埋めてくれるはず

 昔、何かの本で読んだ記憶がある。

 子どもが生まれたら、犬を飼うといい。犬は、子どものためにいろんなことを教えてくれる。

 友情、信頼、協力。いろんなことを。

 最後は、命の大切さも教えてくれる。その死をもって。

 ありがとう、むく。

 きっと明日の朝、虎はひどい顔をしている。これだけ泣いて泣いて泣きまくっているのだから、きっと、そうなる。

 でも、目を腫らしたその顔は、俺を、ヨメを、少しばかり温かい気持ちにしてくれるだろう。お前がいなくなった痛みを、ちょっぴりやわらげてくれるだろう。

 虎はまだ泣いている。ヨメの肩も震えている。ただ、その背中に張りつめた気配は、ない。

 わたしは、ニンニクの効いたから揚げをひとつ、つまんだ。

むくとはると遊ぶ虎
むくとはると遊ぶ虎

【妻のアトコメ】

 子ども1人と犬3匹の母としては、その命を守ることが一番重要な仕事のはずなのに、1週間家を空けたことで、責任を果たせなかったとしたら、そんな恐ろしいことはない。もっと早く病院に行っていたらなんとかなっていたのだろうか、いや、でも最後はなるべく自然な形で家で看取りたいと思っていたし、これでよかったのだろうか、とむくの亡きがらを前に自問自答を繰り返していた私を、虎が救ってくれた。恐らく人間の成長で最も大事なものをむくの死をもって見つけてくれたことによって。命が消えることはもちろん悲しいけれど、虎のおかげでその死にこんな大きな価値を見いだすことができた。清々しい思いすらした。

 むくには感謝しかないが、我が息子にもありがとうと言いたい。私は息子を誇らしく思う。