帰宅後、冷蔵庫の前で虎が突如流した涙のわけは?

 クルマの後部座席に、愛用していたベッドごとむくを乗せ、病院をあとにする。外はもう真っ暗。こんなことがあったばかりだというのに、空腹感を覚えている自分に気づく。

 「虎、夕御飯、何食べたい?」

 「う~ん、から揚げ!」

 これで即決。近所の商店街にある美味しい大分中津から揚げの専門店に立ち寄り、胸肉とモモ肉、さらには軟骨のから揚げを買い込む。むくが眠るクルマの中に、香ばしいニンニクの匂いが立ち込める。

 家につくと、まずはそっとむくを抱き抱えてリビングに。留守番をしていた2匹に見せる。一番若いはるは、むくの息子でもある。母親の死が、何か特別な反応を引き出すのかと見守ってみたが、違うと言えば違う、いつも通りと言えばいつも通りとも言える、なんとも微妙な反応だった。ヨメは「絶対にわかってる。いつものはるは、あんな静かに寄り添うなんてことしないから」と力説したが、お風呂で身体を洗ったあとの母親にああやってジャレつくことならよくあった。普段から犬猿の仲だったまくらは、我関せずで知らん顔。

 むくとベッドをいつもの定位置に置き、病院で先生方から頂いた花束を添える。ああ、ほんとに死んじゃったんだな、むく……とまたしても涙が込み上げるが、一方でニンニクの匂いに食欲を刺激されている自分もいる。

 じゃ、献杯でもしよっか。ヨメと2人で缶チューハイをプシュッとやった時だった。

 突然、冷蔵庫の前に座り込んでいた虎が泣きだした。