虎にとって姉兄のようだった3匹の犬たち

 愛情が薄れたわけではもちろんない。ただ、どこへ行くのも3匹が中心だった時代は終わった。旅行に行く時、宿選びの基準は「3匹の犬が泊まれるか」ではなく「赤ん坊はOKか?」になった。キャンピングカーを借り、親子+3匹の旅行をしたこともあったが、最近ではそれぞれが高齢になってきたこともあって、家でお留守番をしてもらうことが増えていた。

 それでも、気の強いまくら、マイペースのむく、お調子者のはるの3匹は、虎にとってはそれぞれに性格の違う姉兄のようなものだった。0歳児のころ、まくらとは大喧嘩して指先をカプッと噛まれたこともあったが、一人っ子でありながら「まるで一人っ子らしくないですね」といろんな方から言われるのは、間違いなく3匹の犬のおかげである。

 そのうちの1匹、むくが体調を崩していた。老齢なので内臓のあちこちにガタは来ていたのだが、ヨメが海外に出張しているうちに、一気に状態が悪化したのである。まくらはわたしにベッタリ、むくは何となくヨメ――というのがかつての我が家における勢力図だった。

 1週間の留守番期間中、すっかり食欲が落ちてしまったむくは、家の中のちょっとした段差も乗り越えられなくなってしまった。口にできるのは水だけとなり、12匹もの子どもを生んだふくよかな身体は、骨と皮ばかりになってしまった。

 ヨメが帰国した翌日、朝目を覚ましてリビングに降りていくと、むくの姿がない。一瞬パニックになりかけてインフルエンザで自分を隔離したヨメが寝ている部屋をのぞいてみると、布団の横でむくも気持ちよさそうに寝ている。ほとんど歩けなくなっていたのに、夜のうちに隔離部屋までのそのそと歩いてきたのだという。

 良かった、大好きな飼い主が帰って来て、これで元気になってくれるかも。そう思った。

 でも、それはむくにとって最後の力だったらしい。