出る杭を打つのではなく「個」を尊重し、強みを伸ばす

―「個」を強調する教育においては、何が大切でしょうか。

小林 常に相手の立場に立つことを意識させることです。「you are different.」という言葉は、世界では「個性的だね」という褒め言葉ですが、日本では「変わっているね」とネガティブに受け止められます。多様性とは、「自分にとっての当たり前が当たり前ではない人とどう向き合うか」にあります。拒絶するのではなく、違いを知り、認め、活かす力が必要です。

 まったく同感ですね。就任以来、全社員に問い続けているのが「something different(自分の付加価値は何か)」「something new(昨日の自分と何が違うのか)」。これらは私が入行5年目で海外赴任したとき、顧客や上司、同僚、部下から常に問われ続けたことです。日本には「空気を読む」文化があり、出る杭は打たれます。けれど議論中に互いの顔色をうかがうのではなく、「私はこう思う」と明言できる「個」がなければ、企業の成長は見込めません。

小林 日本の教育では、苦手科目を克服することに注力しがち。しかし、これからは自分の強みを醸成していくことが、企業にも教育にも大切だと思います。教育統計学では、自己肯定感の高さが社会的成功につながるといわれており、褒めて伸ばす重要性は増していくはずです。

 組織全体にとって今、何が必要なのかという視点をもちながら一歩前へ進む。全員がそうなれば、組織は必ず変わります。全社員が主体性をもち、誇りをもって働けるような組織でありたいと思います。

小林 これからが楽しみです。本日は、どうもありがとうございました。

ISAKは、多様性溢れるグローバルな集団
インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)は、2014年8月に長野県軽井沢町に設立された、日本で唯一の全寮制インターナショナルスクール(高等学校)。7割を海外からの留学生が占め、過半数の生徒に奨学金を給付することで、国籍のみならずあらゆる意味での多様性を内包するコミュニティーをつくり、多様な価値観と優れた思考力をもつグローバルに活躍するチェンジメーカーを育成することを理念とする。身の回りや地域・社会における課題を生徒自らが設定し、その解決策を検討・発表するリーダーシップ実践の場「Project Week」には、みずほフィナンシャルグループが協賛している。

取材を終えて
日経BPヒット総合研究所長 麓 幸子(ふもと さちこ)

「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2015」大賞を受賞した小林さんは、まさに働く女性のロールモデル。みずほ銀行でも活躍する女性リーダーが多くいますが、林頭取の言葉で、なぜ、みずほ銀行が女性活躍先進企業なのかが理解できました。それは「主体性をもち、自ら考え行動すること」と「恐れずリスクテイクし、挑戦し続けること」を大切にし、そのような女性たちを応援する組織だからということです。トップのコミットメントの重要性を、再確認しました。

林 信秀さん
みずほ銀行 取締役頭取。1957年岐阜県生まれ。東京大学経済学部卒業後、現みずほ銀行入行。ニューヨーク支店などで10 年以上に及ぶ海外勤務を経て、みずほ銀行副頭取など重要ポストを歴任。2014 年から現職。座右の銘は、「百折不撓」。

小林 りんさん
インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK) 代表理事。単身留学したカナダの全寮制国際高校を卒業後、東京大学経済学部へ。米系投資銀行、国際協力銀行、スタンフォード大学教育学部修士、ユニセフを経て、2008年より現職。2014年にISAK開校。