激動の時代に活躍する人材を育てる仕組み

―多様な人材が多様なかたちで活躍する企業・社会では、どのような人材育成が必要なのでしょうか。

小林 世の中はあまりに変化のスピードが速く、未来を予測していくことが難しい。この混迷を極める時代には、3つの大切な力を育むことが重要です。(1)問いをたてる力―「自分を突き動かすものは何なのか? 今一番大切なことは何なのか?」自分と社会に常に問い続け、課題を発見し働きかけていく力です。(2)多様性を活かす力―多様なバックグラウンドや宗教観、社会経済格差などをもつ人々が混ざり合う環境でイノベーションを起こす力です。(3)失敗を活かす力―新しく始めることにつきものの、失敗を乗り越える力です。

 なるほど。教育のみならず、企業にもいえる考え方ですね。マイナス金利やフィンテックなどにより、銀行にお客さまが来なくなる“銀行パススルー時代”が来つつある状況で我々が戦う相手は、同業のメガバンクではなく、Eコマースやフィンテック、コンビニといった異業界です。従来のような前例踏襲型ではなく、さまざまなアイデアを切磋琢磨して、新しいビジネスモデルを創り出せる人材を育てる必要があります。そのためには、社員一人ひとりが失敗を恐れずに挑戦すること、主体的に働くことが必要で、当行では“育成型人事”を推進する取り組みがスタートしました。これは、「個」の強みを伸ばし、失敗したら責める減点主義ではなく、挑戦する人を評価するという、会社からのメッセージでもあります。人生やキャリアは人事部から与えられるものではなく、自ら気づき、学んで成長していくもの。その自覚をもっていない人は意外と多い。自分の強みや、やりたいことに気づけば、挑戦することで学び、成長につながります。たとえ失敗しても、そこから組織のあり方なり、リスクの取り方なりを学んで成長できれば、次の挑戦へ続くはずです。そういう挑戦と学びの文化をつくることが、組織を強く育てるのです。また、<みずほ>グループでは、国籍、性別、キャリアによらず、あらゆるビジネス・業務分野で将来の<みずほ>の経営を担い得る人材を発掘・選定し、育成する「次世代経営リーダー育成プログラム」の取り組みを始めています。

小林 減点主義ではなく、積極的な挑戦を促すことや、若いうちからのリーダーシップ教育などは、日本ではまだ珍しいのではないでしょうか。素晴らしいですね。

―組織をけん引する「リーダー」の存在感も、より増していきますね。

 現在、マネジメントポストへのナショナルスタッフの登用率を、約34%から50%へ引き上げるべく計画中です。また若いグローバル人材の育成のため、初めて海外赴任する社員を増やしました。かつては年間150人ほどでしたが、2016年は250人の社員が海外拠点に異動しました。国内の管理職には、英語力としてTOEICを昇進要件として課しています。海外の人材をローカル化するとともに、東京でもグローバル化を図る。「ここが日本の中の世界」という意識で取り組んでいます。

―ISAKではどのようにチェンジメーカーを育てるのでしょうか。

小林 先の3つの「大事な力」育成の一環として、生徒自らがテーマを決めて実践する「プロジェクトウィーク」を設けています。たとえば「ネパール大地震の支援」を目指したグループは、まず聞き取り調査を行い、集まった援助金の大半が被害甚大な山岳地域に行き渡っていない実態を突き止めました。そこでクラウドファウンディングを計画して数百万円を集め、現地NPOの協力を得て山岳地域に届けました。失敗もありますが、それを活かしていけるよう教師がケアしていきます。また、奨学金の給付により、国籍だけでなく社会経済的バックグラウンドにも多様性をもたせ、違いを体感できる環境をつくっています。