離婚後も、仕事も生活も変えなかった

 「私は離婚することで驚くほど、心が自由になれたんです。長谷川さんにたとえ約束を破られても、帰りが遅くても、驚くほど全く気にならなくなりました。今思えば、『夫婦はかくあるべき』という世間一般の家庭像に私自身が一番縛られていたんですよね。私にとって子どもは絶対の存在なので、長谷川さんが子どもたちの父である以上、絶対的な存在だということは変わりません。『離婚しても、ママとパパは何も変わらないよ』とあえて子どもたちにも言い続けることで、普通の夫婦よりも深い結びつきがあることを示してきました。 私に新しい家族ができてからも子どもたちにうそや隠し事は一切ありません」(阿久津さん)

 一方、離婚を切り出され「内心びびっていた」という長谷川さんは「離婚してもこれまで通り何も変わらず一緒に暮らし続けるなんていう関係が築けるなど、実はしばらく理解できていなかった」と振り返ります。

 「法的な保障がなくなった関係ゆえにいつか突然解消されることもあるだろうと、どこかで不安におびえていました。以前より相手に気を使うようになったことも確かです。でも次第に『こういう関係も本当にありなんだ』と思えるようになりました。とはいえ、やはりそれにはかなり時間がかかりましたよ(笑)」(長谷川さん)

 最初は半信半疑でいた長谷川さんの実父も継母も、「本当にこういう関係もありなんだ」と思うように。そればかりか以前にも増して、家族としての役割や距離が明確になり、かえって互いの絆が深まっていく実感があったそう。やがて阿久津さんは新しい伴侶を得て、さらにもう一人子どもを授かるという展開になるまでは離婚前と変わらない暮らしが続いたといいます。

 阿久津さんの再婚後は、長谷川さんが2人の子どもたちと祖父母と一緒に暮し、阿久津さんは新しい家族との住まいを構えることになります。うそや隠し事は一切なく子どもに事情を話したとはいえ、子どもたちはまだ小学生。本当の意味で理解するのは、やはり難しかったよう。「ママは何で帰ってこないの?」とさびしがられたため、元の家に阿久津さんの部屋は残したまま、阿久津さんが双方の家を行き来する生活をしばらく続けることにしたそうです。

 そして、子どもたちが大きくなって(現在19歳、17歳、11歳)事情を理解した今でも、阿久津さんは平日と週末で生活の場を分け、二つの家を行き来する生活を続けています。もちろん阿久津さんの新しいパートナーも、互いの子ども同士も合意の上です。時には全員そろって食事に行ったり、旅行したりという、家族ぐるみの付き合いが自然な形で続いているというのだからすてきです。

 阿久津さんの新しいパートナーと長谷川さんが二人だけでお茶を飲んだり、和やかに世間話をしたりすることもあり、阿久津さんの3番目のお子さんも長谷川さんに懐いているそう。血はつながっていないけれど、親戚の叔父さんよりももっと深くて近いつながりを感じ合っていて、互いのことを本当に大切に思っているのが伝わってきました。

 「『うちの両親はどうやら世の中の親とは違うみたいだ』と最初は確かに子どもたちも戸惑っていたはず。ところが、父が他界し、法事の席でいきなり長男が親戚一同に向かってスピーチを始めたことがあったんです。『うちの両親はちょっと変わっているけど、いつも僕たちのことを考えてくれたし、自分の好きなことをして生きていきなさいと応援し続けてくれている。だから本当に感謝している』と。うれしかったですね」(長谷川さん)

阿久津五代子さん(左)とOFUKUにふんした長谷川高士さん(右)
阿久津五代子さん(左)とOFUKUにふんした長谷川高士さん(右)