「仕事マトリックス」と「5分ダッシュ法」を実践してみる前に、まずは自分のモヤモヤ感について、『短時間で「完全集中」するメソッド』(大和書房)の著者であり、心理学ジャーナリストの佐々木正悟さんに、問題点と対策を聞いてみた

毎日「終わった!」という感じを持ち続けるのが大事

『短時間で「完全集中」するメソッド』(大和書房)の著者であり、心理学ジャーナリストの佐々木正悟さん
『短時間で「完全集中」するメソッド』(大和書房)の著者であり、心理学ジャーナリストの佐々木正悟さん

羽生編集長(以降、――) 佐々木さんは、短い時間を活用して生産性を上げるノウハウを、ビジネス本やブログ『シゴタノ!』でたくさん提案されています。私の「あふれる仕事、残務感を無くしたい!」という悩み、一体何が問題なのでしょうか?

佐々木正悟さん(以降、佐々木): 羽生編集長は、既に「1日30~40のタスクがある」と数字が見えているので、本来は解決しやすい状況にあります。

―― えっ? 解決しやすい状況に? 毎晩「あぁ、アレもやってない、コレもやらなきゃ」って罪悪感でいっぱいなのに。

佐々木 一番大事なのは、「“今日やるべきことは終わった感”を毎日持っている」ということです。

―― 終わった“感じ”でいいんですね(笑)。さすが心理学ジャーナリストの佐々木さんです。どういう気持ちのセットをしていけばいいのでしょうか?

佐々木 まず、1日30個のタスクを消化しなければならないとすると、1タスク約15分で次々に終わらせていかなければいけません。それだけで7時間半かかりますからね。そもそも毎日30タスクというのはものすごく量が多いので、取捨選択して減らしたほうがいいんですけどね。

―― 30というのは話を聞いて判断・指示を出すというような、3分でできる小さなタスクなど、大小含めた数です。

佐々木 では、「1タスク15分を30セット」という“箱(インボックス)”を作ってしまうといいですよ。50タスクと20タスクが日によって混在しているより、毎日30と決めたほうがいい。すると、テンポが身に付いて、ひとつの習慣になる。習慣化すると必ずスキルが上がっていくものです。15分かかっていたものが、10分に減ったりする。30以上できるようにと目指さない。「できた感」が大事です。

仕事に「まとまった時間」など必要ない

―― 「マニャーナの法則」の中の「5分ダッシュ法」に挑戦してみようかと思っているんですが、佐々木さんのアドバイスは?

佐々木 マニャーナの考え方は、“時間を区切りましょう”、というのが基礎にあります。例えば連綿と続くメールの送受信。これも受信したそばから返すのをやめる。特に朝という最も仕事に向く時間帯に、だらだらメール返信している人が多いのですが、これはオススメしません。夕方にでもできます。私は午前中は、一番骨の折れる「執筆」に充てています。基本的に、「嫌な仕事は朝」ですよ。

―― 嫌な仕事は朝、ですか(笑)。朝からゲンナリしませんかね?

佐々木 夕方やるとなれば、もっと嫌になりますよ。まず「嫌な仕事」を分析して細かくタスクを分けていくんです。マニャーナ法にもありますが、先延ばししてしまう仕事には必ず「精神的な抵抗感」が潜んでいるんです。理由は様々ですが。

―― 分かります! そもそもなんで私がこれやるのよ?というものから、道のりが遠すぎて一歩を踏み出せないもの、苦手な相手との仕事まで。

佐々木 そこで、抵抗を感じる状態を一切つくらないようにするのです。その1つの対処法が「5分間ダッシュ」です。

「精神的な抵抗感を5分で解消する」というのは良い手ですね(羽生祥子編集長)
「精神的な抵抗感を5分で解消する」というのは良い手ですね(羽生祥子編集長)

―― 本によると、「5分間とにかく時間を区切って、その仕事に関するメモを書きまくる」という方法ですよね。私は、新提案したい大型プロジェクトや、編集部のルーチン仕事の棚卸し、なかなか実現されない食事会のセット、企業研修のテキストのブラッシュアップなど、大小さまざまな仕事でやってみようと思います。

佐々木 「とりあえず取り掛かる、それが5分でも」という考え方は良いと思います。そもそも15分以上かかる仕事はそんなにないんですよ。

―― でも、例えば「超大物政治家にイベントに出演してもらって、できればウェブ動画でもメッセージを流してもらいたいから、企画書からアポ取り・コンテンツ制作までなるはやでお願い」なんていう、とても15分で片付けられない仕事が、毎日次々と降ってくるんですよ先生(泣)!

佐々木 私から見ると、その仕事はざっと400行程くらい必要な気がしますね。その400ステップのひとつひとつを、15分以内で片付けていくんです。リストアップする、人に聞く、電話番号を調べる、メンバーメールリストを作る、などなど。全く新しくて大きいなと思う仕事でも、「やったことがあるタスク」の集合にしてしまう。そうすると、精神的抵抗も少なくなります。

「人間の集中力を考えると、1つの仕事は15分以内で終わらせたい」(佐々木さん)
「人間の集中力を考えると、1つの仕事は15分以内で終わらせたい」(佐々木さん)

―― 小さく頻度を高める、ということですね。

佐々木 さきほども言いましたが、「15分以上の仕事はない」というのが私の考えです。例えば最近話題になった翻訳書『サピエンス全史』も、上下巻ありますが、1週間で読み切りましたよ。

―― ええー!? あの分厚い翻訳書? あれ、まさにわが家の寝室にありますよ。もちろんのこと読破してませんが(汗)。どうやって1週間で?

『サピエンス全史』を佐々木さんは 1分読書法で1週間で読み切った。
『サピエンス全史』を佐々木さんは 1分読書法で1週間で読み切った。

佐々木 1分間のコマ切れ時間で読むんです。例えば、子どもを起こす前の1分、ゴミ出しをした後の1分、ランチを食べ終わった後の1分、コーヒーを淹れに行く間の1分、など。日常のどこにでもある「1分」を積み重ねるんです。30分間読書するだなんて、仕事も子育てもしている人には不可能ですよ。皆無です、そんなにまとまった時間は。

―― 先生、脱帽でございます…m(__)m。一体どんな生活を送っているんですか?

「閉じたリスト」を毎日チェックし、達成感につなげる

佐々木 私の1日のタイムスケジュールをお見せしますね。

朝、昼、日没、就寝まで、やることリストがずらり。羽生編集長、目が点になる…。
朝、昼、日没、就寝まで、やることリストがずらり。羽生編集長、目が点になる…。

―― こ、これは…(絶句)。朝ごはんを準備する行程から、取材打合せまでの移動時間まで、びっしり記録されていますけれど、どうしてこんなことを!?

佐々木 どうしてと言われましても(笑)。これが最も効率的だと私は思うからです。もちろん、すべて電子的にコピーして作っていますので、新しく記入するというような非効率なことはしません。こうやって毎日のタスクをたとえコマ切れ時間でも管理すれば、羽生さんのモヤモヤも達成感につながると思います。ポイントは、「コマ切れ時間」での仕事をやりっ放しにしないで、毎日つなげること。だから記録が必要なんです。

―― なるほど、5分ダッシュで書いたメモを会社パソコンのメールに送信して、続きに取り掛かりやすい工夫が必要ですね。頑張ってみます!

佐々木 あ、頑張らないでください。「頑張るぞー!」と意気込むと精神的抵抗感になりますから。スーッと仕事を始めて、精神的な抵抗感をなるべく持たないようにすることです。

―― はい、では頑張りません!(笑) 頑張らなくていいように、スーッとまずは5分、始めてみます。

佐々木さんからのストイックでフラットな指導を仰ぎ、勇気が湧いてきた私! いざ、1月半ばから6週間、「5分ダッシュ法」と「仕事マトリックス」の2つを実践してみました。