せっかく帰国したのに、ギューできない辛さたるや!

 パリから東京へ向かう機内では、さらにひどくなってきた。悪寒が激しい。機内が寒いから? 間接が痛む。狭い椅子にずっと座ってるから?

 東京まであと6時間という頃には、明らかに発熱の気配が。あぁ、やっちゃったか。この感じ、普通の風邪で、こんな辛いかなぁ。まさか?

 羽田でヘロヘロになりながら、サーモグラフィーを通り(おそらく熱があるのも分かるだろうにスルーされた)、トランクを受け取り、元気いっぱいの虎と夫とご対面。思いっきりギューッと抱きしめてあげたかったのだが、何しろねっぱつの私。「ちょっと待って、虎ちゃん、ママお熱あるみたいだから。あんまり近くに寄らないで」と待ったをかけ、ギューしたつもりの「エア・ギュー」。

 ウイルスが蔓延しないように車の窓全開にして、家に帰り、保険証を取って、そのまま夜間の救急へ直行した。何しろ、翌日収録の予定があったので、診断をしてもらわないとならない。悪い予感は見事にあたっていて、「インフルエンザA型」と即、診断が下る。ワクチン打ったのに、なるときはなるのね。インフルエンザ・ナント型だから、効かなかったのかな。

 フラフラになって家に帰り着き、虎が寝ている部屋から一番遠いところで、自らを隔離。せっかく帰ってきたのに。でも、今度の週末に幼稚園の発表会を控えている虎にうつしてなるものか。朝になって、虎がその部屋に来たときも、「うつっちゃうとたいへんだからまだギューはできないよ」と留めるので精一杯。虎のほうも、もう我慢の限界という感じで、幼稚園から帰ってくるとすぐに、私の寝ている部屋に来てしまう。

 2日間寝込んでやっと熱が下がり、夫から「もうママ、熱下がったよ」と告げられた虎は、喜々として私のもとへ駆けてきた。「ちょっと待って、まだばい菌いるよ」と言って避けようとした時、虎の涙腺は決壊した。今までがまんしたものを全部吐き出すように、わぁわぁ泣いた。

 「もうやだ。ママ~! 1人じゃ遊べない」

 とボロボロ涙を流しながら叫ぶ。夫がこれから仕事で出かけてしまったら、1人では遊べない、という意味のようだ。ママ、この部屋から出て一緒に遊ぼうよと言いたいらしい。

 「分かった、分かった。ごめんね。もうギューしちゃおうか。うつっちゃってもいいか」と私が言うと、おずおずと近寄ってくる虎。母と息子は、10日ぶりに、ちょっとだけ控えめに、「ギュー」したのだった。

 ちなみに、半分諦めかけたものの、なんと、虎にはインフルエンザはうつらず、無事、発表会に出席できた。ご報告まで。

東京ドームシティの宇宙ミュージアム「TeNQ」にて
東京ドームシティの宇宙ミュージアム「TeNQ」にて

【夫のアトコメ】

 海外出張7日間+インフルエンザによる隔離2日間。合計9日間のパートタイム・シングルファーザーでした。その間の虎の変化と言えば……一番大きかったのは寝相かな。普段はヨメとわたしの間、川の字の真ん中な感じで寝ているのですが、この9日間はひたすらにわたしベッタリ。一晩中蹴られたり殴られたりのわたしが結構弱りました。

 その影響がモロに出たのがヨメの実家でのこと。普段から良好な関係を築いているとはいえ、ま、わたしにとってはちょっとしたアウェーな場所でもあるので、今まではどれほど酒を飲んでも乱れることはなかったのですが、今回は大して飲んでないのに完全なる酩酊状態に。自分が目を離しても虎を見てくれている人がいる、という安心感が、わたしの中の何かのスイッチを切ってしまったようで。

 あと、気のせいかもしれませんが、幼稚園の先生やお母さん方が妙に優しくなったような。「大変ですねえ」「大丈夫ですか?」などなど、結構なお気遣いをいただきました。パパってお得だなと。同じことを毎日やってても、ママが褒めてもらえることってあんまりなさそうだし。