資産運用のワザを学ぶため、好業績のディーラーのかばん持ちに
阪部 「自分の好きなことをやれ」と子どもに言い聞かせるのは、勝木さんご自身がこれまで「好きなことをやってこなかったから」だとおっしゃったのがとても意外です。
勝木さんは新卒で大手生命保険会社に就職され、国際部門に配属後、世界屈指の資産運用会社の為替ストラテジストを皮切りに、以後名だたる大手外資系金融機関でご活躍されるという輝かしいキャリアの持ち主です。そればかりか学習院大学大学院において6年以上にわたって経済や金融工学に関する教鞭を執ったり、一橋大学でMBA(経営学修士)、京都大学でPh.D.(経済学博士)を取得したりもしています。また、CFA(米国公認証券アナリスト資格)、CMA(日本証券アナリスト資格)、IIMR(英国証券アナリスト資格)を次々に取得するなど、凡人には想像の及ばない向学心の持ち主です。好きでなければ、それほどの高度な知識を短期間に得られるものではないのでは、と邪推してしまったのですが。
勝木さん(以下、敬称略) 予測できない市場を相手に完璧を求められる職場は、常にチャレンジの連続です。勘だけを頼りにしていては到底太刀打ちできない世界ですから、相当勉強しないといけません。それでも100の論文を読んでも99は使えない――、日々、その繰り返しです。
この仕事に就いたばかりの20代前半の若いころは、損を出すことが続き、胃が痛い思いをしました。大儲けしている人のセミナーを聞きに行っては「弟子にしてください」とお願いして、かばん持ちでも何でもして、その人からできる限りのことを吸収したいと思っていました。
仕事に直結する学習は楽しく、身に付きやすい
―― 勝木さんにもそんな下積み時代があったのですね。こう言っては何ですが端から見ていると、勝木さんは挫折知らずのエリートそのものです。
勝木 何をもって挫折というのかは分かりませんが、私も上司から理不尽なことを言われて、胸ぐらをつかんで殴ってやろうか、と思うこともたくさんありましたよ。夜うなされて、妻から「昨日、叫んでたわよ」と言われることもしょっちゅうでした。資格を取得するために猛勉強したのは、もちろんアカデミックなバックグラウンドを知ったうえで市場を予測したいという動機からでしたが、「俺はばかじゃない」「誰にも文句は言わせないぞ」という悔しさがバネになっていたことは確かです。自分の強みは机上の理論だけではなく、学術的理論を実務的理論に置き換えて勉強できたことだと思います。
―― なるほど。実務に関係のあることだから単なる知識の詰め込みにならず、応用できる。だから学びが早かったというわけですね。
勝木 そうですね。実務で培った知識をアカデミックに体系化することで「ああ、こういうことだったのか」という気づきもあり、楽しかったんです。勉強のための勉強はもとから大嫌いですから。