日本の教員の勤務時間の長さは「ぶっ飛んで」いる

 さて、わが国では教員の待遇があまりいいとは言えないようですが、ニッポンの先生方は本当に働いておられます。「それはみんな同じだよ」と言われるかもしれませんが、さにあらず。

 2009年の国際調査データによると、日本のフルタイム男性雇用者の週間平均勤務時間は52.1時間、週60時間以上働いている者の割合は28.5%です(「Social Inequality Ⅳ– ISSP 2009」)。中学校のフルタイム男性教員で見ると、この値は順に55.4時間、50.6%です(OECD「TALIS 2013」)。長時間勤務の割合は半分を超え、全労働者よりも格段に高くなっています。

 ちなみに、日本の教員の勤務時間は、世界の常識からすると明らかに「ぶっ飛んで」います。図1を見ると、もう絶句するほかありません。

 民間に比して薄給で(地域差はありますが)、おまけに過重労働であると。上図は中学校教員のデータですが、おそらくは部活指導などが重荷になっているのでしょう。

 最近になってようやく、この異常事態に当局も気づいてきたようで、「チーム学校」という外部人材組織を学校に入れ、教員の多忙が緩和されることになりました。部活指導も、部活指導支援員という外部スタッフに任されるそうです。*部活は課外活動ですので、教員免許を持つ教員が指導に当たる必要はありません。

専門性が求められるのに雑務が多い

 こう見ると、学校の先生方は心の内に少なからぬ葛藤を抱いているように思われます。しかるにそれは、薄給や過労のような勤務条件だけに由来するものではないでしょう。私が思うに、教員という職業の性格が曖昧であることも大きいのではないか……。

 教員というと、教えることの専門職というイメージがありますが、日本の教員は事務作業や教材費徴収、さらには部活指導といった、授業以外の業務も多く担わされています。図1の左下のイタリアやフィンランドのような国では、考えられないことです。これらの国では、教員の仕事は授業(teaching)にほぼ特化されています。「自分は、教えることのプロ(専門職)だ」という意識も、さぞ強いことでしょう。

 専門職とは、特定の(狭い)業務に精通しており、業務の遂行に際して高度な自律性を認められた職業ですが、「教員は専門職か?」という議論がだいぶ前からなされています。単純作業に勤しむ労働者ではないが、医師や研究者のように高度な自律性を認められてはいない。日本の教員の場合、職務の範囲も広い。

 ただの労働者ではないが、専門職と断言するのは憚られる。こういうマージナルな位置にいることから、「準専門職(semi-profession)」という苦肉の表現が使われたりしています。何とも歯切れの悪い言い回しですね。