「もっと働いてね。でも、子どももたくさん産んでね」は無理がある

治部 人口減に直面し始めた日本社会が、女性の活躍と少子化対策を両立させながら経済成長を持続させていくために取るべき方策は何か、ようやく本格的な議論が始まった時期でした。女性に対して「もっと働いてね。でも、子どももたくさん産んでね」というのは難しいのではないか、と疑問に感じていました。では、どうしたらいいのか。

 女性が産み育てながら働き続けられる国として、よくお手本にされるのが、高い税金を払って社会保障を充実させる北欧型のモデルです。一方、アメリカは政府の育児支援が手薄い“小さな政府”でありながら、成果主義に基づき柔軟な働き方をして、ワーク・ライフ・バランスを充実する取り組みがなされています。日本のように安価で質の高い認可保育園のような設備はなく、政府が有給の育休を産後の女性に提供することもありません。結果、男性も女性と同等に育児や家事に参加して、家庭を運営せざるをえない

 つまり、社会制度があてにならないので、家庭のパートナーシップでやりくりしているのがアメリカ型です。ここに日本が参考にすべきヒントがあるのではないかと思ったのが、留学の動機でした。

羽生 なるほど。実際に取材をしてみての印象はいかがでしたか?

治部 男性側に取材していて印象的だったのは、家事や育児に関して一度も「help」という言葉を使わなかったことです。家事や育児は「help=手伝う」ものではなく、「share=共有・分担する」ものという概念が、当たり前になっているんです。

 一方で、女性側も責任と覚悟を持って働いているという印象でした。「自己実現をしたいから」といった甘い動機で仕事をしている感覚はなく、共働きで家計に貢献していく責任を自覚しているんです。ある人は、「結婚とは、責任の交換である」と言っていました。「男女平等」という概念が女性へのやさしさだけではなく、社会を生き抜くための必須条件としても存在するのだということを強く感じました。(後編に続く)

(取材・文/宮本恵理子 写真/山出高士)