合理的! サービスを積極利用した“家事手抜き文化”

 もうひとつ、この国で女性の就労を助けるのに家事手抜き文化があります。シンガポールでは出産は無痛分娩が一般的。正産期になったら出産の日まで選ぶことができ、産後も産褥専門のプロの方に1カ月間住み込みでママとベビーのケアをしてもらうこともでき、母体を休めることができます。計画出産のために出産間際まで女性が働き続けることも可能ですし、無痛分娩は出産のダメージがより少ないと考えられているために、産後もヘルパーや保育園を利用してすぐに復帰に向けた準備を整えられます。一方、日本はというと、24時間無痛分娩に対応している病院は少なく、自然分娩が主流です。産後院などの施設の数も多くはありません。

 シンガポールでは、母乳も強制されず、粉ミルクや液体ミルクを上手に取り入れての育児になります。スーパーには粉ミルクや液体ミルクやベビーフードの棚がどどーんとあり、みんなそれを利用するようです。3歳以上(中には小学生)などかなり大きくなってからも粉ミルクを飲み続けている子どもたちが多いです。離乳食もきちんと作る人は少なく、ベビーフードもバナナの裏ごしからオートミールなどまでオーガニックの物も日本よりかなり種類が豊富で、チューブや瓶に入っていてすぐに与えられるようになっています。

 お弁当も日本人ママの“キャラ弁”のように、栄養バランスに配慮しながら凝って作っている人はかなり珍しく、タッパーウェアにぶどうを入れて、買ってきたパンとジュースといった感じです。シンガポーリアンはとても合理的で、「栄養さえ取れたら手作りじゃなくてもよい」と考えている人がほとんど。お弁当ありの学校でも適当な食べ物をシンプルに詰めるだけなので、さほど大変ではないようです。家事が浮いた時間で子どもと過ごす時間を増やせると考えている人も多いです。私も気づけば日本にいたころよりも、良い母でなければならないという思いから解き放たれ、違和感なく手抜きができるようになりました。

 掃除はパートタイマーの方に来てもらうことも可能で、3時間で5000円前後など日本と比べると安価です。日本でも法改正があり、大阪府と神奈川県の国家戦略特区で外国人家事労働者の受け入れが解禁しました。日本の場合は直接契約ではなく、ポピンズやダスキンなどの家事支援サービス提供業者を通じてサービスを受ける形になりました。料金はシンガポールと比べるとやや高いですが、月1回でもプロにお願いをすると普段の掃除も楽になるので、頻度を抑えながら、ときどき利用するのもよいのかなと感じます。

 日本人女性は働きながら家事・育児もして、ひとり何役も仕事をこなすことが求められますが、他の国の女性は必ずしもそうではないということをシンガポールに来て、目の当たりにしてしまいました。「シンガポールにいるのに、なぜヘルパーを利用しないの?」――日本で子育てを経験したことのある外国人ママに言われたこの言葉が胸に刺さりました。日本人女性は子育てに仕事にと既に十分がんばっています。外国人女性のように夫や家族の手厚いサポートを受ける、もしくは他人に任せられるものはプロに外注するという方法も模索しながら、等身大でキャリアアップを目指していけるような世の中になってほしいと感じます。