「グローバルな環境で、子どもにより高いレベルの教育を受けさせたい」と、子どもの将来の可能性を考えて、親子で日本を飛び出す海外移住に興味を持つ人は多いでしょう。海外で会社員として働く形態には、主に「海外駐在」と「現地採用」の2種類がありますが、グローバルライフプランを現実的に考えるためには、海外移住に関わる費用をはじめ、仕事や物価、治安、教育環境など現地の情報を総合的に押さえたうえで、後悔のない決断をしたいものです。シンガポールで現在2歳の娘を育てるファイナンシャル・プランナー(FP)花輪陽子さんによるこの連載では、実際に現地で子育てをするお金のプロの視点から、現地採用の基礎知識や子育て事情のリアルを伝えていきます。今回のテーマは、シンガポールの産休事情。共働きがスタンダードというシンガポールの働くママは、出産前後にどのような働き方をしているのでしょうか。

産後の復帰は早く、男性の育児参加と家事・育児外注サービスを活用

 ファイナンシャル・プランナー(FP)の花輪陽子です。シンガポールのファミリー世帯は共働きがスタンダードで、シンガポーリアンや欧米人の多くの女性が働いています。教育費や生活費が高いので、多くの場合片働きではよい暮らしはおぼつかないという理由と、外国人ヘルパーや保育施設が充実しているので、子どもを預けて働くことが比較的容易という理由が挙げられます。また、男性の家事・育児参加が多く、家事手抜き文化(外食、テイクアウト、掃除も外注)も女性就労に貢献していると感じます。

 シンガポーリアンは産休を取得するとき、出産の1カ月前まで働き、産後3カ月程度で復帰をすることが一般的です。「雇用法」および「児童育成共同貯蓄法」が適用されることにより、16週間は有給で会社もしくは政府からお金を受けることができます(※要件あり)。2017年から育児休業制度が拡充し、父親の育児休暇が2週間となりました。今年7月には母親との育児休業の共有期間が拡大される予定です。少子化は日本以上に深刻で、2014年の合計特殊出生率は1.25(※日本は2015年で1.45)。政府もお見合いパーティーの主催など少子化対策に力を入れてはいますが、消費生活がとても豊かなために子育て以外のことに人々の興味が向いてしまうのかもしれません。

 ちなみに、外国人の場合、法定の産休期間は12週間とシンガポーリアンとは条件が異なります。8週間(出産前4週、出産後4週)は会社からの所得補償がありますが、それ以上は雇用主との契約次第になり、通常の有給休暇を合わせて使うという人もいるようです。

 日本では、産前産後休暇に加えて最長で子どもが1歳6カ月になるまで育児休業を取ることができ、企業によっては法定より長い育児休業期間を設定している場合もあります。育児休暇期間中、会社からの給料は発生しませんが、法定期間内は社会保険料が免除されたり、育児休業給付金などのサポートが受けられます。

 日本の制度は母子に手厚いといえますが、一方、復帰後のキャリア面を考えると、長期間のブランクを取ることにより、家庭での家事・育児分担が母親に固定化し、仕事に復帰した後も家事・育児負担が母親に集中する傾向があったり、仕事の感覚を取り戻すのに苦労したりするという問題も指摘されています。その点、共働きファミリーが多いシンガポールでは、早期復帰でスムーズに仕事に戻り、外注サービスを活用しながら子どもの成長に応じて徐々にペースを上げていくというスタイルが一般的です。

共働きがスタンダードなシンガポール。男性の家事・育児参加が多く、家事手抜き文化(外食、テイクアウト、掃除も外注)も女性就労に貢献している
共働きがスタンダードなシンガポール。男性の家事・育児参加が多く、家事手抜き文化(外食、テイクアウト、掃除も外注)も女性就労に貢献している