「手抜きでゴメン」なお弁当 実は子どもは自慢しているかも

横尾: 心理学を勉強し始めたころから食事が気になっていました。大学生活で、食事の習慣が人によって大きく違うことを体感し、幼少期の食生活を調査してその影響を探る研究を始めました。実際の家庭に入って食事を見て回ることが難しかったため、幼稚園・保育園の食事風景を見学させてもらったのですが、そこで子どもたちが各家庭から持ってくるお弁当がとても面白いと感じたのです。小さな箱一つひとつの中に、その子のためだけに作った食事が詰まっている。そこに現れる親子の関係性について研究しようと思ったのがきっかけです。

小竹: 実際のお弁当を見て興味を持たれたんですね。

横尾: はい。はじめは、お弁当に入っている献立の品数や作る手間を客観的に点数化して、子どもの発達との関係を見ようと試みたのですが、うまく相関関係が出なかったんです。

 なぜだろう?と思って実際の子どもたちの声を聞いていくと、大人が捉えるお弁当の評価を子どもがその通りに受け取っているわけではないのだと気づきました。子どもって、その日の気分や体調、朝に交わしたお母さんやお父さんとの会話も含めて様々な文脈でお弁当を捉えているんですよね。例えば、まったく同じ献立のお弁当を作って別の子どもに渡しても、それぞれの子どもでまったく違う反応があると思います。

小竹: なるほど。献立そのものの充実だけが子どもの満足につながるわけではないんですね。

横尾: 論文を発表した後に私自身も母親になり、今5歳と8歳の子どもたちを育てています。下の子は幼稚園に通わせているので私もお弁当を作っているのですが、お弁当は親子の間で行き来させる“交換日記”のような意味合いがあるのだと実感しているんです。「今日は好きな○○を入れたよ」と朝渡して、「おいしかったよ」と返ってくる。「今日は食べきれなかったよ」と返ってきたら、「だったら、明日はおにぎりにしてみようね」と工夫してみたり。そんなコミュニケーションツールとしてお弁当を捉え直してみると、楽しみ方が広がっていくと思います。