クックパッドの初期からのメンバーとして、「料理を楽しみにする」人を増やすためのサービスに日々取り組んでいる小竹貴子さん。自身も二児の母として、仕事と育児のDUALライフに奮闘している中で、気になっているのが「お弁当」の存在なのだそう。

 幼稚園に通わせている次女に毎日作り、小学校に上がった長女にも長期休暇中には学童保育で食べる昼食として持たせている小竹さん。

 働く親にとっては、とかく「手間」「面倒」「苦行」という位置づけで語られることが多いお弁当ですが、小竹さんが日々感じているのは「お弁当ならではの、親子の関係を豊かにする可能性」。ある論文に注目したことをきっかけに、田園調布学園大学子ども未来学部で教鞭をとる横尾暁子さんを訪ねての「お弁当対談」が実現しました。

クックパッド ブランディング・広報担当VPの小竹貴子さん(左)と田園調布学園大学子ども未来学部講師の横尾暁子さん
クックパッド ブランディング・広報担当VPの小竹貴子さん(左)と田園調布学園大学子ども未来学部講師の横尾暁子さん

時短や節約だけじゃない 「お弁当の意味」は何?

小竹貴子さん(以下、敬称略): はじめまして。クックパッドでブランディング・広報を担当している小竹と申します。「毎日の料理を楽しみにする」というクックパッドのビジョンを日本そして世界に伝えていくというミッションを持って日々仕事をしています。今日はずっと気になっていた「お弁当」のテーマについて伺いたくて参りました。

横尾暁子さん(以下、敬称略): 光栄です。クックパッド、日々使わせてもらっています(笑)。

小竹: ありがとうございます。クックパッドが創業したのは1997年ですが、当時は家庭の主婦が自分の作った料理をインターネットで公開することが当たり前の時代が来るとは、誰も思っていなかったはずです。とても個人的なもので閉じたものだった料理を「投稿して楽しめる毎日の習慣」へと変えたのがクックパッドだと自負していますし、料理をポジティブに考える人は以前より増えたのかなと思っています。

 でも、世の中全体を見渡すと、“料理を楽しみにできないハードル”はまだまだ高い。特に、ワーキングマザーは時間と闘いながら料理をこなすことで精いっぱいなんですよね。

 私は次女を幼稚園に通わせているので毎朝お弁当作りがあるのですが、周りのママから「大変」「つらい」という声が聞こえてきます。本来は楽しいはずの料理が、毎日のTO DOになった途端に義務や責任になってしまっている現状を解決したいなと思っていて。料理が解決できることって何だろう?と調べていく中で出合ったのが、先生の論文です。10年ほど前、早稲田大学にいらっしゃったときに書かれた「幼少期の食事経験が青年期の食習慣および親子関係に及ぼす影響」※ という論文を読んで、「これだ!」と思いました。

横尾: 注目してくださってうれしいです。特にどんな点に興味を持っていただいたんですか?

小竹: 先生の論文によると、幼少期を振り返って豊かなお弁当の体験があったと感じている人は、青年期になってからも親子間の信頼の感情を持つことが多いのだそうですね。別の記事(東京大学出版会発行『子どもと食』2013、コラム6「お弁当に見る親子関係」)では、「お弁当箱の受け渡し自体が親子のコミュニケーションになっている」という考察もありました。私がうれしかったのは、「お弁当でもいいんだ!」という発見があったことです。

 私を含め、働くお母さんの多くは、大なり小なり罪悪感を抱いていると思うんです。「かわいいわが子と長い時間一緒にいてあげられなくてゴメン」という罪悪感を。平日に夕食を一緒にとれる日が少なかったり、一緒に食べることはできても「凝った食事を作ってあげられなくてゴメン」と思ったり。だから、一緒に食卓を囲むことにこだわらないお弁当という形の食事でも親子関係にいい影響があると教えてくださったことは、大きな救いのようにも感じられたんです。お弁当に関する情報というと「時短」「節約」といったノウハウは充実していますが、「お弁当が親子にとってどんな意味があるのか」という根本的なテーマを考えるための情報にはなかなか出合えなかったので、とても興味深いと思いました。

 そもそも、横尾先生がお弁当に着目されたのはどういうきっかけがあったんですか?

※ 論文 「幼少期の食事経験が青年期の食習慣および親子関係に及ぼす影響」