今日本の社会が直面している諸問題について、NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが各界の専門家や政治家に切り込む本連載。大臣として初めての「イクボス宣言」で注目を浴び、子どもの虐待問題などでリーダーシップを発揮している塩崎恭久厚生労働大臣のインタビューの「下」編です。

■「上」編
塩崎大臣 子どもの命救うため「子どもの権利」確立

※インタビューは2017年1月に実施。この記事の内容は当時の状況や情報に基づいています。

医療的ケア児の親が就業を続けられない状況を何とかしたい

駒崎弘樹さん(以下、敬称略) 塩崎大臣にご相談があります。子どもの権利に含まれる問題として、日本では障害児の権利がいまだに担保されていないという現状があると思います。昨年の障害者総合支援法改正で、「医療的ケア児」という言葉も入ったことで、重い障害がある子どもに対してのサポートは前進したと思います。

 実際のところ、医療技術の進歩によって医療的ケア児は増えています。昔は救えなかった命が救えるようになったのはありがたいことなのですが、NICU(新生児特定集中治療室)を出て、いざ社会で生活を送るとなったときが大変です。保育園や幼稚園で受け入れてくれるところはほとんどありませんし、特に親が困るのは就学の年齢を迎えてからです。小学校や特別支援学校は「通ってもいいけれど親がついてきてね」という現状ですので、親のどちらか一方、多くの場合は母親が仕事をやめざるを得ません

 自分のキャリアを捨て、毎日子どもと一緒に学校に行って何をしているかというと、教室の隅で6時間くらいずっと待っているだけです。さすがに「女性が輝く社会」を標榜する安倍政権としてはいかにももったいないことではないでしょうか。

塩崎恭久厚生労働大臣
塩崎恭久厚生労働大臣

 そこで提案させていただきたいのが、「訪問看護」の活用です。医療保険の訪問看護では看護師が居宅に行って必要な医療ケアを実施しますが、現行の法律では居宅のみ、つまり「家にしか行っちゃいけない」というルールに縛られているんです。これをせめて義務教育に限っては学校にも行けるように変えるだけで、どれだけの親の救いになるでしょう。まずは特区から試行して効果を検証することから始めてみてはいかがでしょうか。

塩崎恭久厚生労働大臣(以下、敬称略) なるほどね。

駒崎 憲法でも保障されている「教育を受ける権利」を、増加傾向にある医療ケア児も享受できるようにするために。看護師が学校にも行けるようにぜひしていただきたいのです。

塩崎 20年ほど前になりますが、地元の松山の特別支援学校に訪問させていただいたとき、やはり隣町から毎日1時間かけて通ってくる親子がいましてね。母親はただ学校が終わるまで待ち、その後もリハビリにつきあって夜に自宅に帰る。これは大変だなと思いました。母親がすべてを子どものためにささげざるを得ないと、自分の人生を切り開くのは相当厳しくなってしまいますよね。その状況を何とかしなければいけないという今のご指摘は、私も同じ気持ちです。