貧困問題と非正規処遇改善の取り組みはつながっている

塩崎 一昨年のことになりますが、愛知県小牧市の社会福祉士・矢満田篤二さんにご紹介いただく形で、3組の特別養子縁組家庭の親子にお会いしたんです。本当に血のつながった親子となんら変わらない、普通の親子の関係が築けているということが伝わってきましたね。

駒崎 そういった体験があったんですね。子どもを第一に考えて改革を進める姿勢に敬意をお伝えしたいです。一方で、「子どもの貧困」の問題についてよからぬ噂を聞いたのですが……。

 昨年10月27日に行われた財務省の財政制度等審議会分科会において、「母子加算削減」、つまり、ひとり親家庭への生活保護費削減が明確に打ち出されたと。「ひとり親の54%が貧困状態にあり、さらに6人に1人の子どもが貧困状態にある」という状況が社会的な問題となっている中で、貧困世帯をさらに貧困にさせていくような財務省の方針に、私たちは戦慄を覚えるのですがいかが思われますか?

■ 就学児を抱えたひとり親世帯に対する加算・扶助を加味した生活保護水準は、一般低所得世帯(年収300万円未満)の世帯における消費実態と比べるとはるかに高い水準となっている。

■ 母子加算がかつて廃止された同時期に、学習支援費(教育扶助)等が創設され、子どもの学習経費等に係る支援が行われているが、平成21年度に、母子加算は復活されている。

■ これだけの水準の金額が毎月保障されていることで、就労に向かうインセンティブが削がれている可能性がある。

(出典:財務省)

塩崎 財政審の中でそういう資料を出されているのは聞いていますが、今年はちょうど5年に一度の生活保護基準を検証する年で、今まさにそのための議論を生活保護基準部会で行ってもらっています。その中で、母子世帯を含めた子どもがいる世帯の扶助・加算についても議論してもらっていますが、厚労省としては母子世帯の実情に応じたことをしっかりと考えていきたいと思います。もちろん、政府全体としては総理主導で「子供の未来応援国民運動」もやっているくらいで、子どもの貧困対策には全力で取り組んでいきますよ。

 まずやるべきは「貧困の連鎖」を断ち切ること。働き方改革として同一労働同一賃金を目指してやっていることとも、実は深い関わりがあるんです。同一労働同一賃金とは、つまり、正規雇用の6割しかないという非正規雇用の賃金是正。そして、この非正規雇用労働者というのは、その7割を占めているのが女性なんです。働く女性の過半数が非正規雇用というデータもあります。

 従って、非正規問題は女性の雇用の問題。「同一労働同一賃金を踏み込んで実施して非正規処遇を改善しよう!」と総理が打ち出しているのは、「女性の雇用の問題を解決しよう!」というメッセージなんですよ。

駒崎 なるほど。

塩崎 能力や成果相応の報酬をもらえる社会になれば、子育て中でも能力さえあればきちんと報酬がもらえるようになる。ひとり親家庭もより自立した生活に近づく。すると、子どもの貧困の問題も解消していく。実現のためには職務を明確にして、公平な評価をする仕組みづくりが必須です。生活保護費の面からご指摘をいただきましたが、我々としては現金給付も大事だが、むしろ自分の能力を生かして働いて正当な評価のもとに報酬をもらうことで自立的に貧困から脱するのが一番いいと考えています。そのための第一歩として、正当な評価をされていない今の状況を変えていきたいと思っています。