法律に初めて「子どもの権利」と入れた

塩崎 原点は、健全なる環境で子どもが養育を受ける権利を確立したいという気持ちですね。実は、日本の法律には「子どもの権利」を保障する記述がなかったんです。「子どもの権利条約」(基本的人権が子どもにも保障されるべきことを国際的に定めた条約。1989年に第44回国連総会で採択された)は1994年に正式に批准しましたが、国内の法律としては何も保障していなかった。今回の児童福祉法改正では、国内の法律として初めて「子どもの権利」を明記しました

駒崎 今まで保障する法律がなかったというのも驚きですね。

塩崎 2011年の民法改正で、「子の利益のために」(第820条)という文言は追加されたのですが、これもあくまで親権者の監護教育における観点であり、半歩前進でしかなかった。虐待防止をはじめとする、子どもの命を救うためのすべての方策を進めるためには、まず子どもの権利がしっかりと保障されていなければならない。まずそこから始めたいと思いました。やっと一歩を踏み出せたというわけです。

駒崎 大臣自ら、子どもの権利確立を切り開いたということですね。

塩崎 子どもの権利が法律に明文化されれば、できることも広がっていくんです。手始めとして、1月20日召集の今国会で法案提出を目指しています。虐待防止のためにもっと司法が関与できる仕組みを作っていきたい。児童虐待相談対応件数は10万件を超えて増え続けていますが、これはあくまで「対応できている件数」という氷山の一角であり、実際にはもっと発生していると捉えているんです。児童相談所が対応しきれずに家庭に返した結果、起きてしまう不幸を繰り返さないために、在宅での指導を継続し、かつ必要に応じて養子縁組もよりしやすい仕組みを作っていきたいと考えているんですよ。

 児童相談所が親子を引き離す必要があると判断したら家庭裁判所に申立てをし、実際の引き離しの是非を裁判所が決定するまでの期間、裁判所の「勧告」として児童相談所が在宅指導を継続できるようにしたいと。そして、状況が改善しなければ裁判所の介入によって養子縁組や里親のもとや施設で育つこともできるように。これまでの仕組みでもできなくはなかったが、なかなか広がらないことがネックでしたからね。法律に基づく司法の力をもって、より子どもの命を守る手立てをしていきたいと思っています。法務省や裁判所とも議論を詰めているところなんですよ。

駒崎 なるほど。素晴らしいです。先ほどおっしゃった通り、日本の場合は子どもの権利よりも「親の権利=親権」が非常に強いんですよね。わが子を児童養護施設に預けたまま全然会いに来ないのにもかかわらず、親であるということだけで主張が守られてしまう。どんなに子どもがひどい状況に置かれていても、「特別養子縁組は拒否する」と親が言ったらなかなか進めないのが現状です。

塩崎 法律に「子どもの権利」と入れた狙いは、司法を動かすことです。子どもの命を守るために、裁判所も司法としての役割を果たしてほしいと議論しています。

駒崎 子どもの権利のために闘ってくださっているんですね。

塩崎 本来は元の親に育てられるのが一番であり、一時的に状況が悪かったとしても改善されればいつでも戻れるように環境を整えるのがベストでしょう。それでもうまくいかないときは特別養子縁組。それでもうまくいかない場合は小規模施設へ。これまでは、養子縁組や里親よりも児童養護施設で育てることが優先されてきましたが、私としてはやはり「肌のぬくもり」を感じられる家庭的な環境で養育を受けられるというのが子どものためになると思っているんです。スキンシップを求める時期にお風呂に一緒に入るとか、同じ布団で寝て朝に「いってらっしゃい」と見送り合うといった愛着形成の積み重ねは大事でしょう。施設の場合は、スタッフの方が朝に出勤してくるのを子どもたちが待って、夕方見送るという生活になるのですから、やはり家庭とは随分異なってしまいますよね。

駒崎 原則家庭養護という大きな方針転換に至ったきっかけはあるのでしょうか。