2016年は「マインドフルネス」という言葉を方々で目にした年でした。

 日本でマインドフルネスに注目が集まったのは2014年1月、米TIME誌の特集「The Mindful Revolution(マインドフルネス革命)」からではないでしょうか。以降、様々なメディアで特集が組まれ、米グーグルやインテル、フェイスブック、ナイキ、さらにはゴールドマン・サックスといった企業が研修に取り入れていることが伝えられ、2016年6月にはNHKスペシャル『シリーズ キラーストレス』が火付け役となりすっかり流行の気配を見せています。

 では、マインドフルネスとは何か。一体、何のために取り入れることが推奨されているのか。「瞑想(めいそう)」「ヨーガ」をする「方法」や、「職場で1分でできるマインドフルネス」のような「手軽な取り入れ方」などが紹介されているものの、そんな「手軽な方法」を実践するだけで、マインドフルネスの効果は得られるものなのでしょうか。

 東京マインドフルネスセンターのセンター長、長谷川洋介さんに、マインドフルネスの意味、そして何に効くのかについて、ポイントを伺いました。

【1】マインドフルネスとは「気づくこと」

長谷川洋介(はせがわ・ようすけ)さん。国内で本格的な実践を積める「東京マインドフルネスセンター」でセンター長を務める
長谷川洋介(はせがわ・ようすけ)さん。国内で本格的な実践を積める「東京マインドフルネスセンター」でセンター長を務める

 マインドフルネスとは何か。語源は仏教の言葉、「sati(サティ)」の英訳と言われることが多く、日本語では「気づき」「気づくことである」とされます。でもこの定義では、分かりにくいですよね。

 源流は「禅」にあるともされますが、大きく広まったのは1979年、米国のジョン・カバットジン博士がストレス低減プログラムとして、瞑想とヨーガを基本とした8週間のプログラム「マインドフルネスに基づくストレス低減法(MBSR)」を体系化し、マサチューセッツ大学医学部に取り入れたことからです。

 MBSRにおけるマインドフルネスの定義のポイントは3つ。

(1)present-centered:今という瞬間に中心を置き真剣に意識して注意を向け

(2)non-judgement:余計な判断を加えず

(3)Awareness:気づきを得ること

 これにより自分の気持ちをコントロールできるようになっていくことが、ビジネスではストレス低減、集中力アップ、仕事効率化、ひいては業績アップの効果をもたらし、さらに働く人の人生が良い方向につながるとされます。

 また、治療としてのマインドフルネス瞑想は、うつや不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や摂食障害、痛みとの向き合い方などに効果があると考えられています。

【2】マインドフルネス最初の効果はアンガーコントロール

 マインドフルネスを取り入れることでの最初の効果は、まず怒りの気持ちが静まりやすくなることに表れると、医療法人和楽会の貝谷久宣理事長はおっしゃっています。

 忙しいと家庭内がぎくしゃくしたり、子どもをすぐに怒ってしまったりということが起きがちです。そして怒っていると「なんでこんなことをするの!」などと「怒りの感情」にのまれてどんどん感情が沸騰して怒り続けてしまう。そんな経験をしてきた方は多いでしょう。

 それが、マインドフルネスを取り入れると、自分が怒っているという事象に早く気づくことができるようになる。すると「怒っている状態を止める」ことができるようになるのです。

 「自分は怒っているな」と気づけば、言い方を変えたり、違うコミュニケーションの取り方をしたりできるようになってきます。あるいは相手がした何かに対して怒って対応すると、その相手も怒って返してくるものです。でもまず自分が怒らずに対応できるようになれば、相手も怒って返すことがなくなり、コミュニケーションが円滑になります。

 もちろん相手がグサッと刺さることを言えば一瞬「なんてことを言うの!」と怒りの感情が立ち上がるかもしれません。ただ「怒りの感情が湧いてきた」ことに気づければ、その感情から離れることができます。すると次にどうすればいいのか、自分で行動を選択できるようになるんです。笑って返してもいいし、怒ってもいいし、叱りつけてもいいんです。ただ、いくつかの行動の選択肢から選べるようになる、余裕ができることが大切なのです。

 怒ってはいけない、イライラしてはいけないということではありません。怒りでも悲しみでも、その感情に気づいて相手に返しているのか、気づかずに返しているのかということなんです。その違いは大きなものです。

 マインドフルネスを取り入れることは、あくまでも自分のものの見方を変えて、相手と自分のコミュニケーションの仕方を変えて、円滑にしていくことが目的とも言えます。