田房 夕飯づくりは私の役割だったんですが、とにかく私、料理を作るのが好きじゃないんですよ。自分の中でも言葉になっていなかったけど、料理を通じて「子どもの健康・栄養」を常に考えなければいけないっていうことにかなり負担を感じてた。一日のうちの3分の1の「子どもの栄養」をこれから20年近く毎日一人でやらなきゃいけないんだ、っていうのがすごく重かったんです。さらに「子どもが食べられるもの」と「夫と自分の食べたいもの」の両立を毎日するのもつらい。気楽に料理ができないタチだから。

 そんなある日、夫が遅く帰ってきて、テレビをつけてサッカーの試合を見始めたんです。別にいつもの光景なんだけど、その時は頭と心がパンパンだったから、「もう無理」みたいな気持ちになって、そしたら翌日、テレビで鬼怒川が決壊しているってニュースが流れた。洪水でお家が流されたり、屋根の上に避難してる人たちをリアルタイムで見ていたら、それが影響したのか分からないけど、私の中でも何かが“決壊”しちゃったんです。突然夫に、「夕飯を作る役を変わってほしい! 一週間休ませてほしい!」とお願いしてました。

 本心では別に休みたいわけじゃなかったんです。ただ言葉にならない「こんなにつらいんだ」という気持ちを分かってほしかったのかも。

 その頃、子どもが餃子とシュウマイしか食べてくれない時期で、ただ焼いたり温めるだけの食事を与えている罪悪感とか、冷凍食品を使いたくないっていう“呪い”みたいなものがあって……。

『キレる私をやめたい』田房永子著より
『キレる私をやめたい』田房永子著より

水谷 分かります……。子どもに食べさせるものは「ちゃんとしなきゃ」っていう呪い。私は「こうあらねば」みたいなのが、全部最初の離婚のときにふっとんじゃったんで、その辺わりとゆるくやれてるんですけど。

田房 でも、そういう話が夫とはできない。「冷凍食品使えばいいじゃん。何でそこまで気にするの?」って言われちゃうんです。その時も、「だったら俺がやればいいんだろ」みたいになって「そうじゃないんだけど……」と思いつつも引くに引けず、数カ月くらい、すっごい険悪になりました。だからきちんと言語化して話し合える、さるころさんってすごい。

男も女も、話せば必ず分かり合える

水谷 私、「男の人は別の生き物」とか全然思えなくて「話せば分かる」と思っているんです。それは私が二卵性双生児、男女の双子だったことも大きいかもしれないです。うちの夫も年子の妹さんがいて、男女混合の4人きょうだいということもあって男女の性差よりも「お互い、同じ人間じゃん!」みたいな気持ちのほうが強いのかもしれないです。

 なので私は「何で男が女を養わなきゃいけないの? 女が家事をするからといって男だけが大黒柱みたいな責任を負わされたくなーい!」って言われれば「そうだよねー。わかるわかるオッケー! 一緒にがんばろ」って思うし、そういうタイプの男性を選んでるんだと思います。

* 後半に続きます。

(ライター/砂塚美穂、撮影/川上尚見)