32歳で学習塾を起業して20年間経営し、7000人に上る乳幼児~小学生の教育に携わった経験のある立石美津子さん。現在は子育て本の数々を執筆、講演家としても活躍する立石さんは、自閉症児を育てていることも公表し、学校選びについてなど様々な経験、知識を伝授していらっしゃいます。

日経DUALでは、ワークスアプリケーションズがオープンした自社運営の企業内託児スペース「WithKids(ウィズキッズ)」のオープニングセレモニーイベントに女優・木村佳乃さんらと登壇した立石さんに単独インタビューを実施。『1人でできる子が育つ「テキトー母さん」のすすめ』(日本実業出版社)にあるような、「テキトー母さん」になるためのコツ、就学前に本当にすべきことなどについて、伺いました。

(参照記事:「木村佳乃 ママが疲れ過ぎると子どもが甘えられない」)

褒めて育てる、怒らないで育てるは難しい

――著書、『1人でできる子が育つ「テキトー母さん」のすすめ』の冒頭は衝撃的ですよね。「親も子どもも幸せになる! 『テキトー母さん』6カ条」として下記の項目を挙げていらっしゃいます。

(1)期待しない
(2)他の子どもや兄弟と比較しない
(3)親バカになる
(4)ママ友と群れない
(5)育児本に頼らない
(6)世界中を敵に回しても子どもの味方になる

 共働き家庭の親は情報に敏感で、それだけに子どもにも自分にもストイックになりがちで「100点の親、100点の子ども」を目指す人も少なくないように思います。

立石美津子さん(以下、立石) そうですね。日本の文化が“右に倣え”の文化ですので、その傾向は強いと思います。「個性を重んじる」と言いながら平均点を意識したり、他の子と比べてああでもない、こうでもないと悩んだりする親が相当数いると思います。
  「人に迷惑をかけてはいけない」「どこへ出しても恥ずかしくない子でいてほしい」という他からの評価を気にする子育てが「100点の親、100点の子ども」を目指すことにつながってしまうんです。
 それこそ、本屋の子育て本コーナーには“褒めて育てましょう”“怒らない子育て”“頭がいい子にする方法”“ママは笑顔でプラス思考で”といったものが数多く並びます。書籍以外でも、こうしたテーマの子育てセミナーは多いですよね。ところが子育ての現実はそうではなく、思う通りにはいかないものです。まじめな人ほど書籍を読んで、講演会に参加して勉強して、“理想のいいお母さん”を目指すのに、朝から晩まで「ちゃんとしなさい!」などと声を荒げて怒ってしまう自分を責めて、自己嫌悪に陥りかえって落ち込んでしまう。

――“褒めて育てましょう”“怒らない子育て”というのはまさに意識してしまう言葉です。でも実際には「片付けなさい!」「支度しなさい!」「早くしなさい!!!」と鬼の形相で叫ぶことのほうが多いという……。

立石 “褒めて育てる”“怒らないで育てる”ことはできなくても、“テキトーに育てる”ことはできるのではないかと思うんですね。それで、本を書きました。
 理想のママ像を目指したり、理想の子どもを作り上げようとしたりする行為は、かえって子どもを不幸にすることがあります。理想を追って「うちの子にはまだこれが不足している。あれもこれもできない」と追い立ててばかりいると、「どうせ自分なんかダメな人間なんだ」と子どもが自信を失ってしまいます。子どもに必要なのは、自分自身を好きになること、自尊感情を持つことです。ところがテキトー母さんのもとでは、案外、子どもがしっかりしたりするものなんです。
 親の価値観を押し付けず、子どもにないものを嘆くことなく、ありのままを全部受け入れることで、子どもが大人になったとき、他人を妬んだりすることなく「自分は自分、生きているだけで幸せ」と思えるようになっていくと思いますよ。