健常児も障害児も子育ての根っこは同じ

――立石さんは子育てをしながら起業し、現在は講演会や執筆業などでお忙しくされていますが、「子育てしながら働いて、しかも夫もなかなか分担をしない…でもキャリアアップしていきたい」と悶々としている母親たちに、どうしたら「悶々」としなくなるか、ご意見をお聞かせいただけますか。

立石 何事も完璧にしようとしないことが大事だと思います。
 キャリアアップしようと思うお母さんたちは、家に帰っても子どもに一生懸命勉強を教えたり、家事も完璧にこなそうとしたりしがちなのではないでしょうか。私の場合、息子が知的障害を伴う自閉症なのですが、ただそれとは関係なく、どんな人も、家族以外に頼れる人をつくっておくことだと思います。私自身はヘルパーさんを依頼し、いざというときは子どもを見てもらっていました。
 それと、仕事はこれからの長い人生の中でいつでもできますが、子育てだけは今しかできないこと。その大切な時間であることの自覚は持ってもらえたらと思います。特に乳幼児期は、長い人生の中でたった数年のことですよね。普段は保育園に預けていたとしても、家にいる週末などは、しっかり子どもと向き合うことが大切だと思います。

――とはいえ、お子さんの幼少期、立石さんご自身は、かなりお忙しかったのでは…。

立石 実は私自身、もともとあまり手抜きができないタイプだったんです。だからこそ、使えるサービスは利用しようと思いました。子どもは2歳から保育園に通わせて、基本的には平日は夜だけ子どもと接して、土日は子どもと過ごす。小学校に入ってからは、放課後は放課後デイサービスを利用し、障害児の学童クラブに通わせる。掃除はロボット掃除機に任せて、片付けが減るように断捨離生活でモノを減らし散らかりようのない生活をする。お便りなどのプリント類も、スマートフォンで撮影して、スケジュール管理アプリに保存して紙は処分してしまう。そうやって限られた時間の中で、物を減らし、いかに合理的にやっていくかを工夫してきました。

――お子さんの学校のことなど、情報はどうやって入手されたのでしょうか。また、発達障害かどうか、ボーダーラインにいるような気がしている場合、何をきっかけに判断したらいいものでしょうか。

立石 一人で悩んだりせず、同じ障害の子どもを持つ親の会(自閉症でしたら自閉症協会など)に入会し、交流を持つことが大切です。療育情報やタイムリーな情報を手に入れることができます。何もでかけないで家で悶々としていても先には進みません。また療育に行くと同じ障害を持つ同年代のママたちと話をすることができます。相談先は住んでいる自治体の役所で聞くと教えてくれますよ。なにしろ“発達障害児”は全人口の6~10%存在するといわれ、それはつまりクラスの中に2~3人はいる状態。アスペルガー症候群などを含む、発達障害かどうか診断の難しい発達障害のお子さんもいることでしょう。ただ、健常児も障害児もその障害程度が軽くても重くても、子育ての根っこは同じだと思います。

――赤ちゃんのころの何カ月で歩けたとか、どれくらい話せたとかに始まり、読み書き、算数、水泳…なんでもつい、「他の子と同じようにできるようにさせなければ」と思って比較してしまいますね。

立石 仕事は自分のペースでできますが子育てだけはそうはいきません。思い通りにならないのが子育てです。ワーキングマザーは時短、合理性などを追求し、これが会社でも評価されることもあるかと思いますが、子育てはそのむしろ逆で、時間がかかっても手間暇かけて無駄なこともして、子どもも親も育っていくと思います。

立石美津子(たていし・みつこ)

1961年大阪市生まれ。聖心女子大学卒。幼稚園・小学校・特別支援学校教諭免許を取得後、故・石井勲氏のもと、幼稚園・保育園に漢字教育を普及する。平成7年、株式会社パワーキッズ(教室名 エンピツらんど)を創業し、幼児教室を経営。現在は著者、講演家として活動。30年間の教育現場での経験をもとにした机上の空論ではない講演が人気。自閉症児の母。著書に『1人でできる子が育つ「テキトー母さん」のすすめ』『〈マンガとQ&Aで楽しくわかる〉1人でできる子になる 「テキトー母さん」流 子育てのコツ』『子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方』『はずれ先生にあたったときに読む本』など。公式サイトは立石美津子オフィシャルサイト

(ライター/山田真弓、撮影/シバタススム)