アナログ時計を読めるようにすることで算数もできるように

――ところで、立石さんは7000人もの乳幼児~小学生の教育に長年携わってきたそうですが、その経験から、就学前にしておくべきだと感じてきたことはどんなことでしょうか。

立石 今は、小学校入学時点でひらがなの読み書きができて、数が数えられるのは最低限必要なことになっていると思います。小学校に入学した時点で、ゼロから教えてもらう時間が十分にあるわけではないので。だからと言って小学2年生でやることを前倒しで未就学児のころから勉強させても、生きた知識にはなりにくいですよね。つまり、生きた知識と連動させて学ばせることが大切だと思うんです。
 例えば、未就学児のころから塾に通っているから算数が得意で、小学1年生なのに三ケタの繰上りの計算ができるようになっている子が、「お買い物に行きました。100円渡したら20円のお釣りがもらえました。いくらのものを買ったのでしょう」という文章題が出てきたら、全く答えられないということが起きます。お買い物のシーンが想像できないわけです。文章題は、計算能力だけでは解けません。想像力が必要です。お店に行って、お店の人にお金を渡したら何が起きるのか。何を買おうとしていたのかという状況が頭に鮮明に浮かばないと、解きづらいものなのです。想像力は実体験を伴うほど培われます。
 もちろん遺伝的に優れた子はいるとは思いますよ。顔かたち体の大きさと同じように、一を言えば十まで分かる子もいます。ただ、共通しているのは机上の勉強だけをさせている子は、応用力が付きづらい、伸びにくいとは思います。

――実体験として親が子どもと一緒にできることとなると、具体的にはどんなことになりますか。例えば読み書きについては…。

立石 ひらがなに関しては、絵本を読んであげましょう。また、文字を書くことについては、1日1枚ワークブックできれいな字を書くことを強制するより、鉛筆の持ち方と筆順をしっかり覚えさせればいいでしょう。幼児期についたクセは直りません。半面、持ち方と筆順が合っていれば、キレイに書けるようになるものです。鉛筆の持ち方はパソコンのタイピングやゴルフのフォームと同じで基礎になるものです。ぜひ、二歳くらいでクレヨンを持ち始める時期から、持ち方を教えてあげてください。トンボ鉛筆の「Yo-i もちかたくん」などを利用するのもいいと思います。持ち方を教えるのに変に苦戦するより、ツールに頼ったほうがいいですよね。筆順は原則、上から下、左から右に書くことを教えてみてください。

――算数はどうでしょう。数字を覚える以外に何かありますか。

立石 時計を読めるようにしておくことが大事です。そのためには日常での声掛けも必要です。
 まず各部屋にアナログ時計(=針のついた時計)を置きましょう。それから、例えば「あと10分で3時だからそれまでにお片付けしておやつにしようね」とか、「あと5分で9時だから、出かける支度をしようね」など、時間を組み入れた会話で指示するようにしてみましょう。そうすると、子どもが自然に時計を学べるうえに、言わなくても行動できるようになっていきます。「今すぐ歯を磨きなさい」「早く支度しなさい」などと指示だけしていると親も疲れてしまいます。でもそれを、時計を見ながら、今何時だから、あと10分で着替えなさいとか、8時までに歯を磨きなさいなどと、生活の中で具体的に時計を組み込んでいくと、時間感覚がつかめるようになり「8時まであと15分あるから歯を磨いて着替えよう」などと行動力が付いてきますし、時計も確実に読めるようになっていきます。
 そしてこれが小学2年生になると、計算問題につながっていくんです。例えば「今8時40分です。40分後になると何時何分になるでしょう」という問題が出てきます。でもそれが時計を見て育った子はすぐに分かるのに、見てこなかった子は計算するようになります。
 他にも、例えばおやつを分けるといった行為も大切。あめを10個渡して3人で均等に分けなさい、ということを日常的にしていれば、余りのある割り算ができるようになります。

――一人っ子も多いので、おやつを分けるという体験そのものが少なくなっていそうですね。

立石 そうなんです。すると机上の計算が増えてしまって、そのシーンが想像できず苦労したりするんです。
 それからモノの数え方ですね。小さいうちは子どもに合わせてなんでも「1つ、2つ」と数えているかもしれませんが、「2枚」「2本」「2匹」など、日常的に単位をつけて話しているかどうかが、小学生になってから違いを生みます。子どもが「絵本が3つあるね」と言ったとしても、「そうだね、3冊あるね」と返すなど、会話の中で取り入れていくようにしましょう。
 読み書きや算数とは関係がありませんが、未就学児のうちに、ぜひ、お箸の持ち方は幼児期に身につけさせておいてください。ひらがなや数字の数え方を先生がじっくり教える時間がないように、お箸の持ち方、使い方を先生が小学校で直すということはありませんので。