日経DUAL創刊時から、連載「ママ世代公募校長奮闘記」を執筆してきた大阪市立敷津小学校・元校長の山口照美さん。この4月からは、元民間人校長として公教育に関わる山口さん。そんな山口さんの言葉をストレートに伝える新連載の6回目です! 

* 本連載の最後のページには、大人ではなく“お子さんに向けた”山口さんからのメッセージがあります。ぜひパパやママが声に出して読んであげてください。

「不機嫌を許されるのは、赤ん坊と天才だけ」

 昨年末に祖母が亡くなった。数えで97歳だった。

 最後は寝たきりで眠る姿ばかりだったが、亡くなった今は、かえって元気な笑顔しか思い出せない。隣の谷から嫁に来て、戦争中に長男を身ごもり、3人の子を育て、山村の集落で畑仕事をしながら生涯を過ごした人だった。集まった親戚や近所の人から語られるのは、人の悪口を言わず、よく笑い(とびきりの「ゲラ」だった)、周りを明るくさせる可愛らしい人の思い出。

 死んだ後に、こんな風に人の心を温め続ける記憶を残せる人間でありたいと、話を聞きながら思った。

 昨年には義母も亡くなっている。彼女も明るく、茶目っ気いっぱいの人だった。脳梗塞で倒れてもなお、「イケメンの兄ちゃんに、お姫様抱っこされてお風呂に入れてもらってん」と回らない舌で見舞い客を笑わせようとしていた。

 祖母も義母も、私には無い天性の明るさを持っていた。素直にうらやましい。娘もそうだ。彼女は、基本的に明るい。叱っても全く凹まないのでイラつくことさえある。でも、めちゃくちゃ怒られた後に、ケロッと甘えてくる娘に実は私が救われている。

 そう、私は「不機嫌スイッチ」をなかなか切り替えられない人間なのだ。

 切り替えられないからこそ、心にこの言葉を刻んで切り替えるよう努めている。

 「不機嫌を許されるのは、赤ん坊と天才だけ」(斎藤孝/『上機嫌の作法』より)

 根拠があるわけでもないのに妙に説得力がある。

 私は相手に気を遣わせるほど幼くもないし、天才でもない。不機嫌をまき散らすより、さっさとスイッチを切り替えてご機嫌でいるほうがいい。

 笑顔を作るのが先か、微笑む気持ちになるのが先か、どっちでもいい。

 笑顔を作れば、自ずと気分も上向きになってくる。笑顔は笑顔を連れてくる。祖母や義母や、周りの根っから明るい人たちが教えてくれた。

 校長になって自分を受け入れてもらうときにも痛感した。不機嫌な人より、ご機嫌な人のほうが助けてもらいやすい。怒った顔の人に道を聞かれるより、笑顔で聞かれるほうが親切にしたくなるだろう。先ほどの言葉を言い換えるなら、「不機嫌でも損をしないのは、赤ん坊と天才だけ」なのかもしれない。