制度より大事なのは「マインドセット」

 同社が2016年7月1日からスタートした取り組みの柱は、大きく分けて2つ。

 一つは、言うまでもなくWAA、つまり「Work from Anywhere and Anytime」。社員が自由に働く場所と働く時間を決められる仕組みだ。もう一つは、月の残業の上限を45時間に設定したこと。なぜ残業時間を制度のターゲットにしたのだろうか。

 「45時間以上働いた場合にも、もちろん残業代は出します。けれど、残業の上限があれば、そこに向かって努力してみようと思うでしょう。大切なのはそこなんです。上限があることによって意識が変わる。行動が変わる。これがマインドセットが変わるということです

 マインドセットの重要性を示したのが、後輪を「ワークスタイル」、前輪を「ワークマインドセット」とした「自転車」のイラストだ。

 両輪が揃い、漕ぎ手が自らの力でペダルを踏み込んだときにだけ前進する自転車をイラストに採用したのは、与えられた環境を享受するだけでなく理想に向かって自ら動いてほしいという社員への願いを表現したかったからだという。

 「どんなに立派な制度にも完璧はあり得ません。逆に言えば、欠けている部分がある制度だったとしても、運用さえしっかりしていれば組織は回っていきます。制度づくりにフォーカスして緻密さを求めるのもいいのですが、それよりも『どうしてこの制度を作ったのか』『制度を使う人にどうあってほしいのか』を考えたマインドセットのほうが重要なのです」

 開始から7カ月を経て着実に成果を残しつつあるWAAの根底に、自社の利益のみならず社会全体の改善を強く願う気持ちがあること。また、導入の背景に、経営陣が社員の豊かな生活を願う真摯な思いがあることが、ここまででお分かりいただけたのではないだろうか。

 次回は、実際に制度を導入してからの社員の声や課題についてリポートする。

(取材・文/藤巻 史、撮影/稲垣純也)