日本人特有の勤勉さは残しつつ、より良い働き方を提供したい
では、同社がWAAを導入した背景を見ていきたい。
ユニリーバブランドの製品はシャンプーやせっけんといった日用品から食品まで多岐にわたる。身の回りを見渡せば、1つや2つはすぐ同社のブランドを冠した製品が見つかるのではないだろうか。
社会的認知度が高く、多くの人に待望される商品に携わっているという事実と自覚は、社員にとって大きな誇りであり仕事に対するモチベーションでもある。しかし、そうした精神的な部分だけで「働き続ける」ことができるかというと、働く環境の充実なしにはかなり難しいのが現実だ。結婚や出産といったライフステージの変化がワークスタイルの変化に直結しがちな女性はなおさらだろう。
ユニリーバはダイバーシティーの推進を重要な経営戦略の一つと位置付け、「業務に支障がないなら、いつどこで働いてもよい」という考え方のもとで多様な働き方の受け入れを推奨してきた。日本でも早くからフレックス制や在宅勤務制度、育児休暇を導入して「労働環境の面から社員の働きがいをサポートする」ことに力を入れてきたため、「自分らしく働き続けるために会社の環境を利用する」という風土自体は根付いているようだ。
しかし、日本人らしい勤勉さや気遣いから、周囲とは違う働き方を選ぶことに遠慮する社員も多かったのだという。
セミナーでも、2014年にイタリア人の現社長が就任した際、「なぜ日本人は早く帰らないのか?」「なぜ、仕事が終わっても自宅に帰らず飲みに行くのか?」と驚いたというエピソードが紹介された。
日本人特有の「勤勉さ」という長所は残しつつ、もっとより良い働き方を提供できるのではないか。
国が変えてくれるのを待つのではなく企業から動かなければ、いずれは「日本という国そのものの競争力が失われる」のではないか――。
WAAの原点となったのは、グローバル企業ならではの切迫した危機感だった。
こうした前提を踏まえて、次回はセミナーの様子をリポートする。
(取材・文/藤巻 史、撮影/稲垣純也)