2015年6月に発売されてから販売部数累計30万部のベストセラー『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者であり教育経済学者の中室牧子先生の独占インタビューを4回に分けてお送りします。「中室牧子 『因果』と『相関』の違いには要注意」に続く最終回。テーマは「問題を抱える家庭の子を支援するのは、わが子のために必須」です。

「人の子どもと比べない」ことが大事

中室牧子先生
中室牧子先生

日経DUAL編集部 前回は、因果関係と相関関係を見極める大切さを教えていただきました。では最後に、膨大な情報が簡単に手に入ってしまうがゆえに苦しんでいる、ママやパパへのアドバイスをお願いします。

中室先生(以下、敬称略) 「人の子どもと比べない」――。ぜひ、これを皆さんにおすすめしたいと思います。私が最近行っている「ピア効果」の研究をご紹介しつつ、なぜ私が「人の子どもと比べない」ことが大切だと思うのかをお話ししたいと思います。

 ピア効果を簡単に説明すると「人から受ける影響」です。大人である私たちも、何かと身近にいる人から影響を受けています。「類は友を呼ぶ」といいますが、「友が類になっていく」ということもあるのだということです。経済学の研究には、私たち人間が、親しい友人や家族の考え方や習慣、行動にまで影響を受けることを示したものもあります。喫煙、肥満、ゴルフの成績や、貯蓄性向に至るまで近しい人の影響を受けていることを明らかにした研究があります。

 大人でも友人や家族の影響を受けるのですから、子どもはなおさらでしょう。海外のデータを用いた実証研究は、成績はもちろんのこと、カンニングをするかどうかなどまでも、友人の影響を受けることを明らかにしています。

 話を元に戻すと、私たちが最近日本のある自治体のデータを使って分析したところ、日本の小・中学生については、学力のピア効果がマイナスになる――、つまり、周囲の友人たちの学力が上がれば、自分の学力が下がってしまう傾向があることが分かったのです。子どもたちは自分の学力や潜在能力だけでなく、自分の学力や潜在能力が他人と比較して相対的にどの位置にあるかということを考慮して、どれくらい勉強するかとか、どこへ進学するかなどの意思決定をしています。つまり、自分の周囲の友人たちの成績がよいということは、相対的に自分のクラスの中での順位が下がってしまうことを意味しており、それが自分の意欲や成績の低下につながってしまっているということです。