経済学の研究では、2つのことがらの「因果関係」の把握に注力している

中室 しかし、どうやら、学校というところは大人のノスタルジーに強烈に支配されている場所のようで、私も時々調査で学校を訪れますが、自分の子どものころと全く寸分変わらぬ教室の様子に驚きを隠せないときがあります。教室の正面に緑の黒板、黒板に向かって縦に並んだ机と椅子、後方に掃除道具の入った灰色のロッカー。30年前に私が小学生だったときと何も変わらないのです。

 しかし、今回「スマートフォンを使用すると学力が下がる」と言っているのは権威ある医師会で、しかもその医師会が引用しているのは文部科学省が実施している学力テストの結果を用いた分析なのですから、十分信用に値するはずじゃないかと思った方もいるのではないでしょうか。

 ところが、ここで私たちが注意しなければならないのが、「相関関係」があるということは「因果関係」があることを意味しない、ということです。これは非常に重要なことなので、ぜひ皆さんに知っていただきたいと思います。

 「因果関係」とは「2つのことがらのうち、どちらかが原因でどちらかが結果である」状態のことを指します。つまり、「スマホ」が原因で「学力が低い」という結果がもたらされたのであれば、それはスマホと学力の間に因果関係があるといえます。一方で、「相関関係」というのは、「2つのことがらに何らかの関連性はあるものの、2つのことがらが原因と結果の関係にないもの」です。もしスマホと学力の関係が相関関係なのだとすると、子どもにスマホの使用をやめさせても、学力は上がりません。つまり、2つのことがらの関係が、「因果関係」なのか「相関関係」なのかを見極めることが重要なのです。

 近年、経済学の研究は、2つのことがらの「因果関係」の把握に大変なエネルギーを注ぎ込んでいます。経済学の目線で見ると、先に医師会が紹介している文科省実施の学力テストの結果を用いた分析は、あくまでスマホと学力の「相関関係」を示したものにすぎず、この分析をもってスマホと学力の間に「因果関係」があるとは到底言えないものです。すなわち、「スマホを使ったから、学力が下がる」とは言えないのです。

 何故でしょうか。恐らくスマホを使ったから学力が下がるのではなく、学力が低いような子どもがスマホを使っているだけなのでしょう。学力が低いような子どもがスマホを使っているだけなのだったら、その子どものスマホを取り上げても学力は上がらない可能性が高いと考えられます。