男女賃金格差が両立を阻んでいる

 次に長期的な対策について説明します。ひとつには、男女の賃金格差をなくすことだと思っています。

 社会学の研究成果でも明らかなのですが、夫婦どちらかが仕事をセーブするか、退職するかを迫られたとき、給料の低いほうが、その選択をするというデータがあります。

 それはそうですよね、経済的なことを考えたら、大抵の夫婦が、給料の高いほうが仕事を続け、低いほうが仕事をセーブするはずです。

 こういうデータもあります。DUAL読者にはフルタイムの共稼ぎ夫婦が多いと思うのですが、彼らは実際にはまだまだマイノリティです。2005年から2009年のデータを見ると、第1子を出産する前では25%の人が専業主婦で、出産後に43%の人が退職しています。つまり子どもを持つ夫婦の7割が、妻は専業主婦。 2000年から2015年のデータでもさほど違いはありません。このデータの背景にも、男女賃金格差はあると思います。

 では、男女の賃金格差がなくなると、どう変わるでしょうか。「僕のほうが育児は得意だから、仕事を減らそうか」という両立パパが出てくるかもしれません。夫婦が2人でじっくり話し合い、どちらが仕事をセーブすべきか、といった議論もできるのです。

 そういう社会を作るには長期的な目が必要なわけですが、どうしても人は、喉元を過ぎると関心が薄くなります。待機児童の問題も、自分の子どもが認可保育園に入るまでは問題視するけれど、入れたらホッとして、忘れてしまってはいませんか?

 現在の子育て世代、つまり当事者も、子どもが大きくなると、自分達が問題だと思っていたことにコミットしなくなる。それでは、いつまでもイクメンが抱える問題は変わりません。

自分とは異なる境遇の人にも関心を寄せる

 社会を変えるために必要なことは、自分達が直面した問題を、当事者ではなくなったときにも関心を持ち続けること。もっと言えば、自分達が直面したことのない問題にも関心を持つことです。

 共稼ぎ夫婦のママ・パパが、専業主婦の抱える問題に無関心では、共稼ぎ夫婦が抱える両立問題に関心を持ってもらえるはずがありません。今の日本には、先ほども言ったように、共稼ぎ家庭より、専業主婦家庭が多いのです。もちろん、DINKS世帯も、独身世帯も少なくありません。昨年は50代男性の生涯未婚率が2割に達しました。それが今の日本なのです。

 昨今、“多様性”という言葉にも注目が集まっていますが、“多様性を認める”とは、自分とは境遇が異なる人にも思いを馳せることです。

 しかし実際には、逆の現象が起きている。例えば、多くの外国人が日本に移住して働いていますが、ふだんは気にしないのに、自分のマンションの隣に外国人のコミュニティができたら、嫌がる人は多いでしょう? 保育園が足りないから作るべきだと多くの人が言っていますが、いざ、作るとなると反対運動が起きています。

 今、日本で起きている“多様性を認める行動”とは、受け入れる“寛容さ”ではなく、当事者ではないからどうでもいい“無関心”を意味しているような気がしてなりません。

 男性も育児に積極的に関われるような社会にするためには、本当の意味で多様性を認められる社会になり、あらゆる社会問題に関心を持つことが大切なのではないでしょうか。

 まずは自分が、当事者意識を持つこと。立場が違う人に対しても、境遇が異なる人に対しても、想像を膨らますことが、解決への道だと思います。

 DUAL読者も、今後子どもの手が離れたとしても、ずっと関心を持ち続けてほしいですね。

次回からは実際にイクメン・イクボスとして仕事と育児を両立させている2017年版・DUALパパ四天王達のインタビューをお送りします。

(取材・文/辻 啓子)