避難所で流行りやすい感染症とは? ワクチンで備えを

 次に登壇したのは、小児科医の早川依里子医師です。災害時に避難所で流行しやすい感染症を防ぐために、日ごろからできる備え、「予防接種」についてのお話です。

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 昨年夏に、関西空港から始まったはしかの流行がありました。海外では3回接種の国もありますが、日本は現在2回接種。夏の流行で罹患した人は、1回接種しかしていない年代の人達でした。日本は海外の人から「はしかの輸出国」と皮肉られていたなど、ワクチン接種に関しては諸外国から後れを取っています。

 「ワクチンは副反応が心配」という人がいます。もちろん副反応が起こるリスクはゼロではありませんが、病気になったときのリスクと副反応を天秤にかけて、ぜひ接種してほしいと思います。感染症別に解説します。

はしか
ワクチンの副反応としての急性脳炎は100万分の1の確率で起こるが、はしかにかかると1000人に1~2人が脳炎罹患する、非常に怖い病気。

風疹
妊娠中のお母さんがかかると赤ちゃんの聴覚障害が起こる可能性がある。風疹にかかると、6000人に1人の割合で急性脳炎になる。症状が出ない不顕性感染は診断が難しく、感染者はかなりいると思われる。

水ぼうそう
日本では毎年約100万人が罹患し、4000人が重症化して入院、20人が亡くなる。2014年10月に定期接種化(2回)されたので今後は減少が見込まれる。1回接種だと不十分で、小学生くらいにかかる人が多い。

おたふく風邪
100人に1人が無菌性髄膜炎、500~1000人に1人が回復できない片方の難聴に、3000~5000人に1人が急性脳炎になる。ワクチン接種による急性脳炎の発症は25万人に1人。定期接種化が望まれる。1回接種では不十分。

B型肝炎
非常に感染力が強く、日本でも保育園で集団感染があった。日本でようやく定期接種化された。接種対象年齢外の人は任意接種が望まれる。

 国民全員がワクチンを受ける「ユニバーサルワクチネーション」という考えがあります。ワクチンを接種している人が多ければ、それだけ流行を防げます。世界180カ国以上、90%以上の国と地域でB型肝炎ワクチンはユニバーサルワクチネーションになっていますが、日本ではようやく2016年10月から定期接種化(3回)がスタートしたばかりです。新生児や持病があってワクチンが接種できない人のためにも、周りの人が接種することで予防することは大切です。

インフルエンザ
東日本大震災では小規模の流行が見られた。毎年50~200人の割合でインフルエンザ脳症が起きる。

破傷風
ワクチンが定期接種化されている日本では、東日本大震災での破傷風の発症は10例、スマトラ沖地震では106例あった。日本では12歳のときに接種していれば10年程度は免疫があるが、その後は免疫が低下し、発症するケースがある。10年以内に接種していなければ、追加接種が勧められる。

ロタウイルス胃腸炎
日本では年間患者数が80万人、入院は7~8万人、10人が亡くなる病気。嘔吐下痢の他、けいれんや脳炎・脳症の合併症も。症状が治まっても便中に3週間以上排泄され、感染することがある。経口生ワクチンによって感染を防いだり、症状を軽くすることができる。

 東日本大震災の被災地ではロタウイルスの流行が危惧されましたが、ワクチンの無料接種によって、ロタウイルス胃腸炎による入院患者数は85%減少しました。任意接種ですが、最近では接種する人が増え、目に見えて患者数が減ってきたのを実感しています。ちなみに、ノロやロタウイルス感染症にかかると、1カ月ほどは便にウイルスが排出されるので感染の可能性があります。登園・登校基準は「下痢・嘔吐が消失した後」なので医師は治癒証明書を書きますが、実際は感染の可能性があるので、トイレなどの後の手洗いは念入りに行いましょう。

 2011年の日本の乳幼児死亡率は1000人中3人ですが、ラオスでは5歳未満の乳幼児の死亡率は1000人中72人です。途上国の死因の多くは肺炎や下痢によるものですが、日本でも大規模な災害が起きて医療が供給できなくなれば、途上国のように死亡率が上がることが懸念されます。