男性の管理職が多い中で自然と自分流の勝ち方が身についた

羽生 どうやって乗り越えていったんですか?

山崎 一つの救いとして、ビジネススクールでの学びを通じて「相手の仕事を理解できた」というのは大きかったですね。組織管理やファイナンスの概論を学んでいたので、相手にとっての課題や苦労も何となく想像できて共通言語を持てたことは、一緒に議論を進められるベースになったと思います。

羽生 なるほどなるほど。

山崎 それがなかったら、コミュニケーションはうまくいかなかったでしょうね。経営企画部での積み上げがゼロだったことで、かえってフラットに相手のことを理解する姿勢が持てたのかもしれません。

羽生 部内のコミュニケーションで心がけたことはありますか?

山崎 その道のプロですので、目線を合わせて聞くとか、教えていただく姿勢を心がけました。一方で、他部署の部長は私にも「プロ部長」を求めるからしんどかったですね。作戦としては「戦わない」に徹しました。私はまだプロになりきれていないアマ部長でしたから、同じ土俵で戦ってもどうせ勝ち目はない。主張をぶつけ合うのではなく、それぞれの分野に詳しいプロ部長に教えてもらって、経営企画の仕事に活かしていこうと考えました。

羽生 決して自分の勢力を伸ばしていくことが目的ではなく。たまにいますよね。自分のシマの席数を増やしたいとか、忘年会で呼べる人数を自慢する部長。

山崎 まったく興味ないですね(笑)。組織の勢力抗争とかまったく関心がないです。そういうテンションで来られたとしても、私は戦わないです。広告宣伝部長時代はありましたよ。15年くらい同じ畑でやってきて、社内の誰よりも宣伝を分かっている自負もあり、部のプレゼンスを主張できるだけの経験の素地もあったからです。でも、経営企画部長の立場になった時の私にはそれがなかった。だから、同じ戦い方を選択しなかっただけです。私はいつもそうなんですが、基本的には勝負には絶対に勝ちたいんです。

羽生 絶対に勝負には勝ちたい。

山崎 はい。ただ、勝ち方にはこだわっていないんです。未経験分野で部長職になった時も、私よりも優秀な部下に対してどう向き合うべきかと考えた時の“勝ち方”の戦略が「身を引くこと」だったからそうしたんです。不戦勝をねらったんですね(笑)。プロ部長との戦いにおいても、相手の主張に対して言い返すことではない勝ち方があるんじゃないかと考えました。

羽生 具体的にはどういう方法になるんですか?

山崎 例えば、相手の役に立つとかね。相手が欲しいものを提供するとか。すると、相手もケンカふっかけてこないでしょ(笑)。でも、そのアプローチの根底には「負けたくない」という気持ちがあるんです。

羽生 きっとレアなタイプではないですか?

山崎 そうですかね。ただ、今になって思うのは、男性の管理職が多い中で飲みニュケーションや声の大きさでは勝てないと自覚しながら自然と身につけてきた自分流の勝ち方なのかもしれないですね。勝てないコンペには出ない

羽生 「肉食系隠れ平和主義者」ですね。理知的で建設的なんですけど、出る時には出ますよという。

山崎 そうですね(笑)。普段から積極的に同調するようにしています。あと、私、挨拶が得意なんです。もうほぼ脊髄反射なんですけどね(笑)。人の上に立つときに最低限やっておかなければならないこととして「挨拶はきちんとする」「基本的にはにこやかにする」と意識しているうちに、自然とできるようになったんです。顔は笑っていながら、実はシリアスなこと考えていたりするんですけどね(笑)。

羽生 へぇ~。これは後世に伝えたいテクニックですね。

山崎 防御本能だと思いますけどね。ムダに敵を増やすより、相手に親しみを感じてもらって、できれば面白いと思ってもらって仕事する方が200倍ラクじゃないですか。競争心を持たれるよりもずっと。それに絶対につるまない。決まった相手とだけランチに行くとか飲みに行くとか、固定したネットワークをつくるような活動はしません

羽生 常に一人。でも、全員と仲がいいということですね。

山崎 そうですね。仕事を遂行するうえで必要だと思って身につけたテクニックだと思います。

羽生 上位者とのコミュニケーションと部下とのコミュニケーションの違いで気をつけていることというのはありますか?

山崎 同僚や部下からは面白い人と思ってもらえればいいかな。上役に対しては、その人が重視しているコミュニケーションスタイルに合わせるようにしています。例えば、正面を向いて礼儀正しい挨拶を求めるとか、自分がいる時にできるだけ席を立ってほしくないとか、形式に強いこだわりがある人っていますよね。私は極力合わせます。で、その人が去った瞬間に崩します(笑)。それもあえて部下の前で崩します。すると笑いが起きて場が緩むということもあるし、何より「上司はそういうふうに扱っていい」と教えているつもりなんです。

 仕事を円滑に回すテクニックとして、難しい相手は転がせと。それを真面目に教えるというより、「山崎さん、愉快だな」と思ってもらいながら伝えられたらいいと思っています。だって、本当に難しい相手が現れた時にずっと合わせていかなきゃいけないのかと思うと、若い人たちも不安になるじゃないですか。うまくやっていけばいいんだよと、手本を見せることも大事かなと。

羽生 余裕とユーモアがないとできないですね。

山崎 そうですね。こちらに余裕がないと部下も相談事ができなくなりますしね。問題が上がってこなくなるほうが怖いので、適度に緩ませます。その代わり、会議はギュウギュウやる

羽生 万里子流ギュウギュウ会議術も教えてください。

山崎 まず手ぶらは許さない。アジェンダには必ず目を通して、それに対して自分の意見をまとめてから来い!というのが私のルールです。それをやらないで座っているだけの人は次の会議から呼ばないです。

 会議は意思決定の場なので、そこに来るまでに自分の意見をまとめるのは最低限必要な条件ですよね。会議の時間を健全なディスカッションができるテンション高いものにしたいので、緩い会話はそこに要らない。どうでもいい会議が2時間とか大嫌いです。普段の会話は緩くていいんだけど、会議の場は緊張感を持った意思決定の場にする。このメリハリは大事にしていますね

羽生 最初はそうでなくても、そのようになっていくものですか?

山崎 そうですね。私から先手を打って緊張感を演出するようにしています。ダラダラと会議をして長時間労働になるほどムダなことはないと思っています。

羽生 常に頭フル回転になりますね。