前回記事「三井住友銀行 配偶者や『祖父母』もセミナーに参加」で紹介した三井住友銀行(以下、SMBC)の取り組みのリポートをお送りします。2016年11月19日(土)、SMBC本店で開催された「パパママフォーラム」。参加者はSMBCの従業員とその配偶者、子どもを含めて370名。別室ではポピンズによる託児も行われ、普段静かな銀行内にかわいい声があふれました。第1部では脳科学者の中野信子さんが登壇。子どものどのような能力を伸ばしてあげるべきなのか講演を行いました。休憩を挟んでの第2部はパネルディスカッション。中野信子さんと共に、日経BP社ビズライフ局長の藤井省吾、DUAL編集部記者の砂山絵理子が4つのテーマについて意見を交わしました。

本フォーラムの企画、司会、パネルディスカッションのファシリテーターも務めた胡亜矢子さん
本フォーラムの企画、司会、パネルディスカッションのファシリテーターも務めた胡亜矢子さん

【SMBCの「パパママフォーラム」】
「ワーキングマザーミーティング」として2008年から始まったSMBCのキャリア形成と両立のための研修の一つ。本店と神戸本店の2カ所で年に1回行われ、2016年で9回目を数える。「当初は育休を取得する社員も少なく、少人数で会議室の一室で、ママが赤ちゃんを抱っこしながら話し合うようなアットホームな雰囲気でした」とSMBC人事部ダイバーシティ推進室兼人事部研修所所長代理の胡(えびす)亜矢子さん。「10年の間に育休取得者は120人(2006年度)から1722人(2015年度)と14倍に増え、フォーラムの内容も変化してきました。昨年からはSMBCのママ・パパ社員(プレママも含む)だけでなく、配偶者や夫婦を支える祖父母にも来てもらい、夫婦で両立や育児を考える場にしてもらっています」。

 上編では、ご自身が脳科学者を志したきっかけについても触れて、大いに盛り上がった中野信子さんの講演をリポートします。

中野信子さん

東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。元MENSA会員。ビジネスに生かせる行動、子育て方法など、あらゆる分野においての脳の働きや不思議を興味深く伝える。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。著書多数。

中野信子さん
中野信子さん

「なぜ70点しか取らないの?」で周囲がサーッと引いた

 私は子どものころ、周りから「何か扱いにくい」という目で見られる子どもでした。自分ではそう思っていないのですが、母親さえも私と妹に対する態度が違うのです。母親は妹のことは普通にかわいがるのですが、私に対しては抵抗感を持って扱っているような感じでした。小学校に上がってからも、妹が学校で楽しくやっているのを見て、「あっちが普通なんだ。私はどこか欠落があるのではないか」という思いをずっと抱えて育ちました。

 極め付きは中学時代の事件です。私には言われたことや見たものをあまり忘れないという"特殊能力”があって、テストは非常に得意だったんです。聞いたものをそのまま書けばいいわけですから。そのため、同級生があまり高い点数を取らないことを不思議に思ってしまって、うっかりそのことを口にしてしまったんです。

 「授業で聞いたことをそのまま書けばいいのに、どうして70点しか取らないの?」

 もう、これを聞いただけで普通の子どもは「ムッ」としますよね。でも、私はムッとするかもしれないと思わないくらい、「おかしい子」だったんです。さすがにこのときは、友達がムッとする感じや、潮が引くようにサーッとみんなの気持ちが引いていくのが目に見えました。私は言ってはいけないことを言ったということに気づきました。でも、何がいけなかったのかが分からない。

 私が気づいたのは「皆は私が知らないルールを知っている」ということでした。つまりこれは、コミュニケーションのルールです。

 「コミュニケーションのルールは親や先生に教えられるものではないけれど、皆は身に付けている。私も身に付けなきゃ」と焦りを感じました。それにはどうしたらいいかと子どもながらに一生懸命に考えて、人間のことを研究する学者になればそのルールも分かるに違いないと思いました。それに社会に出ずに大学にいれば、私でもなんとかなるかもしれない。その二つを満たすのが「脳の研究者」でした。このとき、私の将来は決まったようなものです。夕方本屋に行ってニューロンに関する本を買ったのを覚えています。