先日、日経BP社で小学校低学年のお子さんをお持ちの親を対象に、親野智可等さんのセミナーを実施しました。親野さんは、公立小学校で23年間、教師を務めた経験からメルマガ「『親力』で決まる子供の将来」を発行する教育評論家です。学習面を中心に小学校生活を充実したものにするために、親は子どもとどう接していくのがいいのかという、親子のコミュニケーションについてお話をお聞きしました。その内容をお伝えする本連載。4回目のテーマは「否定的に叱らないための合理的な工夫」です。

否定的に叱らないための「合理的な工夫」とは?

親野智可等さん
親野智可等さん

 これまで、否定的な言葉で叱ることの弊害について、3つのポイントをお話ししてきました。では、否定的な言葉で叱らなくても済むようにするには、どうしたらいいのでしょうか。私がオススメしたいのは「合理的な工夫」と「言葉の工夫」です。

 まず、一つ目の「合理的工夫」についてお話をしたいと思います。合理的工夫というのは、生活習慣でも、勉強でも、なかなかできないことができるように親が工夫をしてあげる、ということです。

 今から、主に勉強面に関してのアドバイスを中心にお話をしますが、よくお母さんたちから、「ウチの子、なかなか宿題をやらないんです。どうしたらいいでしょうか?」といった相談を受けます。学校や学童から帰ってきても、なかなか勉強を始めないのです。そして、散々、親に叱られて、夜、泣きながらやるんですね(笑)。

 これはどんなに叱ったって改善されません。一番よいのは勉強に取り掛かりやすくするために「ハードルを下げてあげる」ことです。取り掛かりやすくしてあげることで、勉強を少しでも始めるようになれば、もう、半分、終わったものというふうに考えるといいでしょう。

 そのためには色々な方法があります。私は長年、メールマガジンをやっていますが、その読者がとてもよい方法を教えてくれましたので、一つ紹介したいと思います。

ランドセルの中身を全部出して、“見える化”する

 その読者は低学年の男の子がいる親御さんでした。もともと、その男の子は学校から帰ってきて、玄関の扉を開けると、ランドセルをポーンと放り込んでそのまま遊びに行ってしまっていたそうです。

 まだ日のあるうちに遊びに行くわけですから、それはそれで悪いことではありません。ただ、その子が問題だったのは、遊びから帰ってきても、いつまで経っても宿題を始めないということでした。遊びから帰ってくると、いつまでもダラダラしてばかり。最終的には、お母さんに散々叱られて、毎晩のように泣きながら宿題をやらされていたそうです。

 「どうやったら、わが子に宿題をちゃんとできるようになってもらえるのだろうか」。これがそのお母さんの大きな悩みとなっていました。ところが、ある日、家事を終えてボーッとしていたときに、パッとアイデアがひらめいたそうです。

 それは、本当にごく簡単なことでした。玄関にランドセルが2つ入るくらいの箱を置くことにしたのです。深さは5~6センチメートル。つまり、広くて浅い箱ですね。そして、学校から帰ってきたら、遊びに行くのはいいけれども、その前に、用意した箱の中にカバンの中身を全部出すように約束したのです。子どもはそれで遊びに行けるのですから、「それくらいならできるよ!」と快諾してくれました。