障害児を育てる親同士のつながりと家族へのサポートが欲しかった

 そんな尚くんも、1歳を過ぎたころには少し状態が落ち着くようになり、佐々さんも先のことを考える余裕が出てきた。いつもベースにあったのは「どうしたら尚くんが笑顔でいられるか」ということ。そして、「尚くんの人生を大切にすると同じくらい、自分の人生も大切にする」ことを決めていた、と佐々さんは話す。

佐々 障害者の当事者の家族になることは想像を絶する大変さです。色々なところに問い合わせをするたびに、「前例がないので無理です」と言われ続け、「結局他人ごとなんだな」と何度も孤独を味わいました。

 支援する側が当事者を追い詰めている現実。介護に追われながら、諦めずに粘ることは簡単ではなかったと佐々さんは述懐する。「助けを求める声がどんなに小さくても、どこかにつないでくれる、相談できるような場所があればよかったと思います」。そして、同じように障害児を育てる親同士のつながりがあれば、精神的な支えになったはずと考えている。しかし、病院や療育センターのソーシャルワーカー、保健師に頼んでも、そういった人を紹介してもらうことは叶わなかった。

佐々 ショートステイや夜間も対応できる介護拠点が利用できると助かります。あとは、きょうだいへの支援。行政の支援は障害を持つ本人に向けられたものなので、きょうだいへの支援という視点は欠けています。母子入院の際も、長女を同伴して入院することはできないと断られ続けました。障害がある子どもが家庭にいると、きょうだいは習い事ができなかったり、公園にも連れて行ってやれない。どうしても、きょうだいは置き去りです。そうしたきょうだいのサポートが受けられると良かったなと思います。

「NICU退院後、行き場がなくなる」 インフラが機能していない現実

 尚くん出生時の担当医であり、佐々さんが秋田へ移り住んだ後も親身に相談相手となり続けた「池下レディースチャイルドクリニック」の池下久弥院長を進行役に、フローレンスの駒崎さん、佐々さんを交えたシンポジウムが行われました。

写真左から、認定NPO法人フローレンス代表理事・駒崎弘樹さん、任意団体「NAOのたまご」代表・佐々百合子さん、「池下レディースチャイルドクリニック」の池下久弥院長
写真左から、認定NPO法人フローレンス代表理事・駒崎弘樹さん、任意団体「NAOのたまご」代表・佐々百合子さん、「池下レディースチャイルドクリニック」の池下久弥院長

池下 尚くんのような重い障害を持つ子を育てた佐々さんが、一番傷ついたのはどんな言葉でしたか?

佐々 「障害があっても同じ赤ちゃんですから、普通の子と同じように育ててください」と言われたときですね。普通の子と同じようにと言われても、尚くんは永遠に泣いているし夜も寝ない。反り返りも痙攣もする。「お母さんががんばれば大丈夫よ」という励ましの言葉ではなく、具体的にどうしたらいいか、どこで支援が受けられるのかを教えてほしいと思っていました。

駒崎 出産した病院で、社会的支援とつなげてもらえなかったと話す人は多いです。助産師には難しい部分ですし、メディカルソーシャルワーカーがどれだけ障害者福祉について知っているかでも変わってくる。役所に行っても医療課、障害福祉課とたらいまわしなのが現状です。ワンストップで相談できるところがないのは問題ですね。

池下 障害を持つ子の親が就労できていない現状に驚きました。ヘレンのような施設は何人くらいの障がい児を見てもらえるんですか?

駒崎 1つの施設で15人くらいですね。一時保育を合わせればもう少し増えますが、ニーズに対してまだまだ不足しています。待ち望まれていると思います。

佐々 ヘレンのような保育園が尚くんを育てているときに近くにあったらな、とうらやましく思います。療育センターに預けようと交渉を続けても、実現までに3カ月近くもかかりましたから。あとで聞くと人手不足で、看護師の手が尚くんにかかりっきりになってしまうと、他の子を見られなくなってしまうから、という理由でした。プロの看護師ですら大変な介護を、素人の母親が24時間行っているのが現実です。

駒崎 NICUを退院すると行き場がなくなるんですね。インフラがインフラとして機能していない現実があります。そういう思いをする人は佐々さんで最後にしなければならないと思います。