日経DUAL×日経新聞の自治体調査「共働き子育てしやすい街ランキング」。2016年の調査では、首都圏・中京圏・近畿圏の主要自治体と、全国の政令指定都市・県庁所在地など、人口が比較的多い自治体に調査をしました。ただ待機児童に頭を悩ませる自治体がある一方、国内の多くの自治体は、若年層人口の減少、そこからつながる将来的な自治体の消滅危機に焦りを募らせています。

 調査対象外の地方自治体のうち、DUALでは岡山県にある2つの自治体に取材に行ってきました。一つは、合計特殊出生率が2.81に急上昇した奈義町。もう一つは保育料や医療費の無償化を進め、かつ教育にも力を入れている備前市です。どんな思いから、どんな子育て施策を進めているのか、それによってどんな効果が出てきているのか……。「日経DUAL×日本経済新聞 自治体調査」の番外編として、ご紹介します。

【日経DUAL×日本経済新聞 自治体調査】
第1回 共働き子育てしやすい街2016 総合ランキング
第2回 共働き子育てしやすい街 上位50自治体発表
第3回 保育園の予約制度/育休2年 自治体はどう考える
第4回 新宿区長「待機児童ゼロへ 用地や保育士確保へ動く」
第5回 新宿区長「夫婦交代で分割して育休を取れるといい」
第6回 浦安市長「600人のお母さんの声を聞き、分かったこと」
第7回 浦安市長「子育て施策は小さな歯車である自治体から」
第8回  出生率2.81に急上昇 岡山・奈義町の子育て施策 ←今回はココ

奈義町、合計特殊出生率が2.81に急上昇

 奈義町は平成の大合併のとき、住民投票により「合併しない」という選択をした自治体。岡山県東北部に位置する69.54平方kmの小さな町だ。

 合併をしないという選択をしたものの、1万人ほどの人口は減少を続け、6000人強になった。「子どもの声が町から聞こえなくなった」という住民からの嘆きも届くようになった。このままだと町が消滅する…という危機感から、住民投票から10年経った平成24年に「子育てするなら奈義町で」というキャッチフレーズを掲げ、「奈義町子育て応援宣言」のもとで、様々な子育て施策を打ってきた。

岡山県奈義町の田園風景
岡山県奈義町の田園風景

 これまで子育て関連のお金は予算全体の2%強だったが、2016年は1億2600万円と、町の予算の3%強になっている。子どもを育てやすい町を作るため、そして町の子どもを増やすために、これまで様々な取り組みをしてきた。その結果、平成17年に「1.41」だった合計特殊出生率が、平成26年には「2.81」という数字となって表れた。日本の合計特殊出生率が高い市町村は、沖縄・鹿児島などの島しょ部に集中しており、これらの地域以外の市区町村の出生率としては、極めて高い数値だ。

 「出生率を目標に掲げていいのか、という議論はあるかと思いますが、奈義町が生き残るため、次世代につないでいくため、出生率2.6を目標としました。それが達成できてうれしく思っています。今も新たな施策を打っていますので、さらに5年後くらいに、その効果が出てくると思います」と話すのは、奈義町の笠木義孝町長。

 ここで奈義町の主な施策を紹介する。

奈義町の主な施策

■ 出産祝い金

第一子に10万円、第二子に15万円、第三子に20万円、第四子に30万円、第五子に40万円

■ 不妊治療助成

県の助成を引いた額の2分の1以内で年20万円を限度、通算5年間まで

■ 不育治療助成

不育症と診断された夫婦に、1年間の治療費等で30万円を限度に

■ 乳幼児及び児童生徒医療費助成

高校生までの子どもの医療費のうち、保険診療にかかわる自己負担分を町が負担(入院、通院)

■ 保育料多子軽減

保育料は第一子を国基準の55%に軽減、第二子は半額、第三子以降無料(同時期に保育園にいなくてもOK、第一子は高校生からカウント)

<次ページからの内容>
・「奈義町の子はいいなぁ~」という声が、近隣住民からあがる
・保育園や幼稚園、医療費も無料の備前市
・小中学生に一人一台のタブレット端末