保育の中で世代から世代へ伝えられて行く英語教育が示すもの

 フィリピンの経済の急成長をけん引するBPO(ビジネス・アウトソーシング)の中でもコール・センターの数は2011年にインドを抜いて世界一に躍り出た(※7)。それもフイリピン人の大きな特長である英語力の高さからくるものなのだが、これは学校における英語教育だけではなく、実は、特にこのような中流以上の家庭において保育に伴った家庭教育の中での英語教育の重視が重要な要因になっている。そうした英語に対する熱心な取り組みもあって、世界におけるフィリピンの英語話者の数は世界第四位に上っている(※8)。

 しかし家庭の中での教育といっても教育ママによる詰め込み教育といったようなものではなく、日常の暮らしの中に実用英語をどんどん取り入れて、例えば英語の映画を一緒に見る(フィリピンではディズニー映画等の吹替・字幕はない)、買い物に出るときは英語中心で話す(スーパーやモールの表示はほとんどすべてが実際英語になっている)などでの楽しみながらの教育は羨ましい限りだ。

 ヤマネさんの一家でも長男のユウジロウ君の家での英語の先生はロビリンさんと現在大学生のジェッサさんが担っている(フィリピンの大学は講義・教科書とも基本的に英語である)。また、ここまでは保育における英語力の伝承を例に引いたのだが、そればかりでなく民族的な文化や宗教的なものを含む倫理観、習俗風習などもここで伝承されていくことになる。

 もちろんこのような大家族主義にも、プライバシーが保てない、多くの意見がなかなかまとまらない、金銭的な負担と分担に問題が出るなどの課題は常に付きまとうわけだが、基本的にフィリピンでは、以上のような親戚縁者や地域の住民をも巻き込んだ保育の姿勢がそうした問題を乗り越えて、この国の文化と子育てを同時に支えていると言える。ヤマネ一家のにこやかな集合写真は大家族の絆の強さを表している。

(取材・文/岡田孝明 海外書き人クラブ